七面坂

鉛筆みたいなタワーマンションとシベリアを売っている看板建築のパン屋のコントラストは名物。もしもし、と呼びかける。ぜんぶ違う窓の奥、ドーナツ型の蛍光灯が見えたとき、このそびえ立つ鉛筆にどれだけの人生が詰まっていて、四人掛けの机にランチョンマットを敷いたり犬の毛まみれのソファでテレビを観たりしている人がどれだけいるのだろうと、こめかみを起点にした二等辺三角形上の意識が飛びそうになる。質屋おぢさんは「おぢさん」らしいリビングを持っていそう。食器棚の上には青い目の焦点が合っていない西洋人形が麦わら帽子をかぶって立たされていそうだし、革が一部剥げて綿が見える一人掛けの深いソファは4脚くらいある。坂道から見える切れ目の大きな七分丈のレースカーテンは全くの役立たずらしかった。

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