緑のソファ上

「ダンケ」

階段を上がる。お母さんの黄色いニットが見えた。
少し低くなったカウンターを通り過ぎる。

ギリギリで座れる緑のソファ。お尻の1割くらいで座ってる。
底の方が少し広がったコップのアイスコーヒー
小学校のプールの底みたいに濃い水色に反射した器のふち
クリームあんみつの、赤と緑の寒天

まだ春のつもりでいたけれど、もう夏なんだと思った。
今日は影がハッキリしてるから嬉しい、窓の外を見ながら言う。
すぐ隣はシンフォニーホールだったんだ。円柱の建物が好き。

大学の元同級生という感じのおじいちゃん6人組がやってきた。
「いいんですか?」
・・・
「いいんですよ」という短い会話がくすぐったい。

目の前には、顎を斜め上にして新聞とにらめっこをする常連らしき人。

「あれ、今日でしたっけね。」
何か予定を忘れていたご様子の、顔の見えない奥の人。

ー--------ー----

「レトロ」とか、「ディープ」だとか
もしかしたらそういう一言でまとめられてしまうものなのかもしれないけど、たしかに、そういうのは完全に今の時代だけ切り取った言い方なんだろうと思う。
その雰囲気みたいなものだけが価値であるかのように語られて。
喫茶店にある「道具」も「レトロ」の中にしまい込まれる。

ただずっと、そこに在り続けて、ただその時代にあったものを使って対応して、来る人を迎え入れてきた。
今日も、昨日も、また明日も。

なんとなくこの純喫茶での時間を欲する人たちが、なんとなくここを必要とする人が日々訪れるのだ。

この時代の、ほんの先っぽの方で、
小さく四角い光を発する情報生産器に全体重をかける私たち。

緑色のソファに座り、煙草に火をつける。
私は隣で、氷の解けたアイスコーヒーを飲む。


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