matilda

声が聞きたいと君が言った

わからない、君の言っていることがわからない
わからないまま愛したいよ
わからないまま愛したいけど
喉の奥に引っかかって出てこない

わからないものをどう消化したらいいかわからなくて
わからないものはわからないまま消化する必要はないんだろうけど
喉の奥に引っかかって気持ち悪い。体が重い。

自分の言葉がないって君が言う
口から出る声に色はついてなくて
口から出るのは透明な空気だけ
温度をもたない声に、どこからか現れる引き出しの中から
色が出てきて、勝手に君の手を動かして色を塗っているんじゃないか

「歩み寄れない」
その遠さはどこまで君を苦しめるんだろう

手をいくら伸ばしても
足をいくら動かしても
点になって、輪郭がぼやけて君が見えなくなってしまうのが怖い

その遠さは遠いままで愛せたらどんなにいいだろう。

自分を、他者を見る目で捉える私たちは
重なりを信じたいんだと思う。
自分にぴったりと重なることを本当は求めてるんだと思うんだ。

同じ「種」であることを
自分と同じ強さを持つ者でなく、
自分と同じ弱さを持つ者を探してる
重なりが見つかったとき、重なったように思えたとき、つながりが生じる

でも君は私じゃなくて、私は君じゃないの
ぜんぶがぜんぶ私の言葉にはならないの。
近似値を探してただうごめいてるだけ。
見せかけの重なりを渇望してうごめいてるだけ。

交わっているようで、一生交われないもののような気もするよね。

どこかに行っていいんだよ
もう何も引き留めるものはないから
ただ、行きたいところに飛んでいってほしい
もう振り返らないでほしい
止まらないで、ただ歩いて行ってね
体温を感じたらあっという間に溶けてしまうから
いっそのことみえなくなったらいいのかな。

人は一人では生きていけなくて
他があるから己があるの
逃れられないんだよ、ぜったいに

他人を、自分以外のどこかに位置づけて
毎日をやり過ごす。

他人と比べるのも苦しいし
自分は自分と思うのも苦しい。
もう、逃れられないんだと思うよ、
左に行っても、右に行っても、どこに行っても行き止まりの世界の中に生きているんだと思う。
生かされている、んだと思う。ちゃんと生きたい、と思う。

やっぱり2本の足だけで立ってる人はいなくてさ
みんなどこかに体重をかけながら歩いている。

だから私は不完全なままの君を愛せたらと思う。
誰だってぐらぐら揺れている、いつ壊れてしまうかわからない生き物なんだと思うよ。

完全っていうのが何かは到底私にはわからないけど
君を満たす波を私に起こすことはできなくて
雨を降らすこともきっとできないけど
カラカラのまま君を抱いていたいと思う。
そして君の胸で眠らせてほしいと願うよ。

一緒にいよう、一緒にいたいよ
ただどうしようもなく君に惹かれるから。
空白のまま衝動だけで生きられたらどんなに楽だろう。

話すことを、君と一緒に遠くへ歩く楽しさを知ってしまったから
私は君と、一歩ずつ、かかとを地面につけて、ゆっくり濁った水の中を遠くまで歩いていきたいと思う。

君のわかる言語が私にはわからなくて
ずっとわかりたいと思うけど
寄り添いたいと思うけど
どう寄り添ったらいいのかわからなくて

私の口から出る言語は
私のものでしかなくて
どうやったら交わることができるだろうとずっともがいている

息ができぬまま、君に触れていたいと願う
隣で歩いていたいと思うよ
進めない空気の中で手を繋いでいれたらいい
どうか、一緒にいてほしい
そう思うのはわがままなのかな、

君が嬉しかったこと
君が楽しかったことを
素直に「よかったね」って純度100%の笑顔で抱きしめられたらいいのに。
どうしてだろう、感情だけが先に行ってしまうんだよ、先に曇って視界を遮ってしまう。
私は指示を出していないはずなのに勝手に動き出してしまう。

君の話を聞きたい。
君に触れていたい。
君と話がしたい。
けど、今はそれが苦しい。
君が持っているものを取ってしまいたくなる。
いつからそんな奴になったんだろう。
なんで涙を流すんだろう。
かまちょかよ。

君は君のままで
違う生き物として愛でることができるなら。



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