冬眠夏

地面からひょっこり顔を出す、推定年齢9歳くらいの芽たち、低草たちが風に揺れている。
8月だというのに、日陰の紫陽花もまだ息をしているようだ。
美しさを保つ枯れたままのラベンダーを横に見てソファの背もたれに寄りかかってみる。
赤いリンガーTシャツとフリマで1000円だったショートパンツ。海にでも行ってこようか。
朝の光と、外から聞こえてくるような音楽がどうもぴったり合っていてなんとなく身を委ねたい。

三角のスコーンのある朝
手に残る日焼け止めの匂い
丸い大きなスプーンで食べるグリーンカレー
山の間に雲をはめこむ
とぅるっとぅとぅとぅ、鳩が歌った。

好きな本を読んだからかな
読んだ本が好きになったからかな

幻みたいに、「窮屈」だと思っている世界に一瞬だけ光が差すような気分。
こんなに気持ちの良い時間があったなんて、このときまで知らなかったみたい。

絵に描いた、青い色。窓から見える三角形の空は、ますます幻みたい。
どうしたら、あの空まで行けるかな。
どうしたら、外に飛び出していけるかな。
水筒の中に、オレンジジュースを入れてさ、
「行ってきます」って言えるだろうか。

どうしてか、冬眠しているみたいだ。
まったく足が動かない。
殻の中があたたかいわけではないんだろうけど、
骨盤が寝ていてお尻が沈んでいるみたいだ。

「外の世界」と思うものに、貪欲になれるだろうか。
何を求めて、何を探しているかわからないけど、
こんな風に朝がすてきだと思えたらいいのだろうか。

もう少しだけ背筋を伸ばして、壁の向こうを見てみることが
だいじなんだろうか。
壁に残った水滴を口に含みながら、凍りそうな身体を動かせるだろうか。

そしていつか「ただいま」って言って
手を繋いでいられるだろうか。





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