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組織vs個人で全面的な対決をせざるを得ない時の心構え

ここ最近のニュースを見ていて、個人的な体験を思い返すことが多くなったのですが特に、「個人やクリエイター、作家が組織と関係が決裂し、全面的な対決をせざるを得ないとき」について思いを馳せることが多くなりました。私自身にも、サラリーマン時代にも漫画家として開業してからも、そういう経験をしたことがあります。

以前いたアシスタントの子から、「編集部ともめたくない」「会社にひどいことをされた時はどうしよう」というふわっとした不安を聞いたことがあります。最近は漫画家・編集部ともに告発や炎上で話題になることがとても多いので、自分がその当事者になったらどうすればいいのか、不安に思うことはとても健全な心配だと思います。
そしてそうなったときの当事者は基本的に周囲の信頼できる人にしか経験談を話さないし、どうふるまうことが大人としてベターなのか教えてくれる人すらも、現代では探すのが難しいです。

なので、私の経験をベースに、「一般的に企業や組織と個人の関係が決裂しやすくなる種のようなもの」と、「もしそういったことに巻き込まれてしまった場合はどういう心構えをすればいいのか」を、同業者もしくはフリーランスで情報を求めている方のために、飽くまで個人的な考えですが、まとめてみました。

※いつものお決まりの文句ですが、今まで取引してきた企業を批判・告発したり、批判する意図はありませんし、有料記事部分も含めそういった名指しや特定できる情報もありません。

トラブルの種になり得るもの

まず前提として、
基本的によほどでない限り組織(企業)と個人の取引は健全な状態でいられるし、トラブルは未然に防ぐことができます

その上で、
そうはいっても表に出ないだけで、企業と個人の関係が悪くなることはよくあることです。「波風を立ててしまった」「自分に問題がある」と不必要に自分を追い込んでしまうことはありません。仕事としてそうなってしまった場合の対処法を感情を抜きに覚えて今後の糧にするだけです。

(NGTの山口さんのようなケースは全く別として)
それでもトラブルに直面してしまう場合は、まず自分の対応について振り返ったり、適切であったか見返すところから始めると思うのですが、私が相談を受けた時に多いなと感じたことや、個人的に失敗したなと感じたことをまとめました。

利益を与え合う関係が前提であることを忘れている

 これは関係が長くなってくると特に起こりうることだし、誰でも陥りやすいことだ思います。「自分が製作したもので企業に利益を与え、企業は提供された製作物により利益を受ける」ことが多くのクリエイターにあてはまることだ思います。関係が長くなってくると、「企業は自分がいい製作物を作れるように努力をするべき」「個人のクリエイターは替えが利くのでこちらの要求を全てこたえるべき」とお互い「べき」が出てきてしまい、こうなるとどう頑張っても関係が気まずくなります。
 こうなってしまう原因は、クライアントの納品物へのフィードバックが適切でなかったり、クリエイターが締め切りを少しだけ守らなかったり、一方的だったり双方だったり本当に色々あると思うんですが、基本的には積み重なった何かが原因になってしまうのかなと感じることが多いです。
 企業が「その人に頼む理由があってお願いしている」ことを軽視しすぎると個人側は当然不満に感じますし、「企業はサラリーマンだからクリエイターの気持ちなど分からない」と個人も頑なになってしまうと、そもそも自分はなぜフリーランスを選んだのか、作品を対価にお金を貰おうとしているのかという根本的な関係を忘れてしまいがちです。
 そして私もよくこういう気持ちに悩まされることがあるので、そういう時こそフラットにこの企業と取引するメリットはあるのか振り返るようにしています。

組織(企業)に過剰な期待や理想を求めすぎている

 最近ベンチャーやIT系の企業に多いのが、「ミッション(理念)」を掲げて、その言葉を標榜にクリエイターや働き手を募ることです。
 ミッションには色々あって、「クリエイター目線を重視」「作家をスターにする」「新時代のクリエイターを創出する」といったうたい文句はよく目にします。このnoteにもミッションが掲げられています。ミッションを掲げること自体は、けして悪いことではありません。
 その一方で、ミッションやキャッチコピーを妄信してしまう人をよく見かけます。「このミッションは自分にとって利益になる」「こんなミッションの会社は素晴らしい会社だ」「ホワイト企業のサービスだから皆に使ってほしい」と人に進めているクリエイターもよく見かけます。でも、少し立ち止まって考えてほしいのが、ミッションだけでは私達は恩恵を被れないのです
 ミッション(理念)が取引先を選ぶひとつの指標になることはもちろんですが、実態がミッションに伴っているかを我々はフリーランスだからこそ冷静に判断する必要があると思います。手数料は適切か、お金の流れで不当に損を被っているポジションはないか、どのようなビジネスモデルなのか、組織の誰と仕事しても行動原理がぶれていないか、細かい部分にもミッションの実態は見て取れます。
 そして私も、過去こういった「ミッション」を信用しすぎて、過度に信用したり、期待しすぎたりして、関係の作り方を間違えてしまったなと感じる失敗がよくありました。詳しくは次の項目で語ります。

組織(企業)との距離感が不健全

 私個人の反省も、相談を受けたことがある事例からも、よく感じているのが「初めから近すぎる、もしくは警戒しすぎている」ということです。
 私の失敗談として、「この会社で私はクリエイターとして骨を埋める覚悟だから、この会社の一員になったつもりで、新規事業を一緒に盛り上げるぞ」と意気込みすぎて、最初から近い距離感で同僚のような雰囲気を出して仕事をしてしまい、次第に企業もそれが当たり前になっていき、時を経るごとに取引先との関係が不健全になってしまったことがありました。企業と個人はどんなに近い関係だったとしても対等ではありません。それは私がその大前提をあえて無視して、取引先としての緊張感を維持することを怠ってしまったことには反省の余地がありました。
 逆のパターンもよくあります。企業に対して、取引を始めたばかりの頃から「信用ならない」と必要以上に不信感を出してしまい、SNSで不信感丸出しの発信をしてしまったり、小さなミスも許せなくなってしまう人もいます。これは、過去どこかの企業とやりとりして不利益を被った経験のある作家さんによく見られる傾向です。当たり前ですが、企業の中の人も人間なので、自分の事を信用してないあからさまなフリーランスに対していい気持ちはしません。かたくなな態度はコミュニケーションのすれ違いを生んでしまうし、必要以上にお互いを警戒し合ってしまいます。そういうつもりはなくても、自ら製作物に集中しづらい状況を招いてしまうことがあります。
 過去何かトラブルに巻き込まれたことがあるなら、その経験を糧としなければいけないはずです。その経験を自分の仕事のマイナスにしてしまうのはとっても勿体ないことだと私は思いながら仕事をしています。

個人側が「許す」「言われたとおりにやる」「顔色を窺う」「怒る」しか対応パターンがない

 コミュ障やコミュ強という言葉が独り歩きしているほど「コミュニケーション」という言葉に悩む人が多い現代社会ですが、私もコミュニケーションが得意ではないです。ですが、仕事相手と仕事の話をする時は、コミュニケーション不得意と言っていられない時があります。
 私が話を聞いたことのある作家さんでとても多かったのが、「相手を受け入れる、慮る」か「拒絶・怒る」しかコミュニケーションの選択肢がないことです。編集部からの要求を、すべて「YES」か「NO」でしか考えられないと、少しずつ心の澱が溜まって行っていつかは爆発してしまいます。
 特に関係が長くなる相手とは、大人としていくつか交渉の選択肢をとれたほうが絶対にいいです。少し例をあげてみると、「条件を交渉する」「代案を用意する」「相手をうまく動かす」「利害の調整をはかる」「受け流す」「水面下で情報収集する」「見なかったことにする」「忘れたころに反省を促す」「改善策を提案する」などです。私たちが取引相手に言える言葉はイエスかノーだけがじゃないはずです。
 私も経験があるのですが、どうしてコミュニケーションのパターンが極端になってしまうかというと、「組織や企業側を過剰にリスペクト・もしくは相手の立場を強いと思い込みすぎている」という、前述の項目のような理由が多いと思います。「自分なんかが生意気なこと言わない方が良い」と抑え込んでしまうせいだと思うのですが、自分が生意気なことだと思ったらそれは生意気に聞こえてしまうし、当然調整できる範囲のお願いだと思っていれば相手にもそのように聞こえます。ここで感覚が一致しないようだったら、その取引先に自分はこういう仕事の仕方がしたいと交渉して理解してもらうか、選ばなければ良いのです。
 特に「怒る」を選んでしまうと、どうして自分がそれをできないか、理由を説明しなくてはと一生懸命文章を考えて書いてしまうため、相手に「取り返しがつかないくらい激怒している」と誤解されやすい傾向があります。こちらとしてはなぜ怒っているか真摯に丁寧に理由を伝えたいだけなのですが、受け取る方と送る方に相当なギャップが生まれやすいです。逆に言うと、「長文で怒っているように見える文章には、大体なぜ怒っているか理由が書いてあるので、その理由を丁寧に拾えれば問題解決の提案ができる」という側面もあり、企業側で問題解決のうまい方は「情報の拾い方」「相手からの見え方を想像できる」人が多いと感じます。
 しかし、そういう人がどこにでもいるとは限らないので、「怒る」というカードの使い方は上級者じゃないと難しい気がします。
 逆に、「全てお金で解決」「相手に折れてもらう」「根本的な理由を無視し続ける」しか対応ができない組織とは揉めごとが起きやすい傾向があります。

正しいマーケット観(市場感覚・相場観)を持てていない

私がフリーランスの道を選んだ時、不足していると感じて勉強したのはここでした。今まで漫画家と編集の関係は業界内の慣習と閉じた世界の共通認識だけでやれてこれたのですが、WEB媒体でマンガを描くようになり、自分を窓口として色んなタイプの企業とつきあいができて、大きい会社、中小企業、フリーランス同士の関係の作り方、契約やお金のこと、メールでの交渉など、知らないことばかりでした。
そんな中感じたのは、自作作業が続いて、ちょっと気を抜くと「情報や現代感覚からおいていかれる自分」の存在でした。具体的に言うと、Instagramで活躍している海外の絵師さんを見て、印刷ではなくスマホの液晶で映えるためのカラフルなイラストにカルチャーショックを受け、 commissionという文化を初めて知ったことなどです。そしてそれを叶える個人間送金システム(ko-fiやpaypalなど)が既にサービスとして存在していることです。
 そういった海外のサービスは、あっという間に日本にやってくる時代です。「先行者利益」という言葉があるように、特にクリエイティブの世界において、新しい情報は知っておくにこしたことはありません。そういった文化の流入によって、流行りの絵柄がどんどん変わっていきます。
 先進的な仕事をしたいと思っているのに、10年前から「絵柄が古いのでpixivや同人誌で勉強してください」と言い続けている編集さんを仕事相手に選んでも、それは「やりたい仕事に合う相手」ではないかもしれません。
 契約やお金のことについてもそうで、仲のいい友達の意見だけを鵜呑みにして、正しい知識がどこにあるのかを見誤ってしまうと事故を招きかねない情報もあります。税務や法律は特に近年目まぐるしく変化しています。大きい企業の経営不振や、取引先が他のフリーランスとどういう取引をしているのか、相談できる人間関係が同じ考えや身近な友達などで偏っていたり、自己啓発など個人の精神世界に閉じこもってしまうと、こうしたマーケット観をつかみ損ねてしまうと感じます。
 ただ、人によっては情報のキャッチが苦手なタイプのクリエイターもいると思うので、そういう人は「自分にとって必要な知識を外部から得る方法」を探した方がよいかもしれません。

ここまでは、トラブルの種になりそうなことと、それをどう対処するのか経験談をまとめましたが、ここから以下は「もし完全に関係が決裂して、トラブルになりそうな時に個人はどう心構えをするか」を経験談としてまとめました。
即効性のあるものではないですが、厳しい現実の話をするので、厳しい現実に直面している人向きのお話です。


では実際に企業とトラブルになってしまった時どう心構えをするか

私の経験と、人から聞いた事例をできるだけ一般化して時系列順にしてみました。

危険な予兆

コミュニケーションがすれ違い続ける

言ったはずのことを何回も反故にされる、伝わりやすくなる努力をしてみるがまったく状況が改善されない、もしくは企業側の担当者がかなり感情的になっていたり、理不尽な要求をされている等、コミュニケーションに疑問を感じてきている段階です。この時点でかなりフラストレーションがたまってきます。

どんなケースでも個人側(自分)が折れないと先に進まなくなる

理不尽な要求が増え、改善を求めたとします。そうすると、根本的な解決にならない提案ばかりされたり、他の人はこの条件でやっていると言われると交渉の余地のない返答をされたり、どんなことも自分がYESと言うしかない関係になってきたらかなり危険です。

執拗に荒探しをされる

この段階に来たら、もう関係は決裂しているものと見ていい気がします。
ちょっとしたミスや社内の伝達不足をこちらの責任だと叱責されたり、何かするごとに小さい指摘が増え、心地よい関係ではまったくなくなっていると感じたら、その取引先を離れるサインです。

嫌がらせがある

ここまで来ると炎上に近いケースですが、利害が真っ向から対立するということは、ここまでされることも覚悟したほうがいいです。関係のない社員から「匂わせ」に近いような言い逃れのできる中傷があったり、こちらが仕事をしにくくしようと感情的な嫌がらせをされることがあります。私があえて嫌がらせの項目を作ったのは、「ここまでするなんて…」と心の準備ができていなくて、泣き寝入りしていった方を何人か知っているからです。淡々と無視するか、証拠を保存しておくのが良いと思います。

ギャラが支払われない、契約で不当な要求をされる、行き過ぎたリテイクで疲弊している等、色んなパターンがあって、それぞれに共通にあてはまることではないかもしれませんが、ここまで関係が悪化してしまった場合は、自分を守るために行動したほうがいいと私は思います。次項に経験談をまとめました。

企業と対立する覚悟を決めたときの私の心構え

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