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我が家は母子家庭で、時短事務員の私のお給料で暮らしている。
ギリギリ児童扶養手当がもらえない、医療費控除にならないくらいの収入で、市の職員さんから「申請はしてますか?」と聞かれるたびに「ギリギリもらえなくて」と答えて謝罪される。

外食をせず、お惣菜も買わず、お米を実家から送ってもらって節約した分を紅茶や書籍代にまわし、生活費はプラスにもマイナスにもならないくらい。



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今読んでいる本、紅茶と薔薇の日々/森茉莉を買うのは2冊目。1冊目は、母に貸したらどこかに行ってしまった。
コーヒーと恋愛/獅子文六は3冊、かもめ食堂/群ようこは2冊、そのほかにも人に貸して返ってこなくて買い直した本はたくさんある。

それでも誰かに本を貸すのが好きなのは、
返してもらうときに、貸した相手にまた会えてうれしいから。

三人屋/原田ひ香に、お金を貸すことについて「ちょうだいって言わずに貸してって言った。貸すなら、返してもらうときにまた会える」というセリフがあったことを思い出す。

いつかまた会える。
そう思いながら暮らしていく。

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娘が私の本棚に興味を持つようになってから、読んだ後に幸せな気持ちになる本、少なくとも悲しい気持ちが残らない本を選ぶようになった。

平松洋子、小川糸。おいしそうな本が増える。
学生時代に読んでいて、一度手放した江國香織、よしもとばななも、最近また手元に買い戻している。

娘が「一番好きな本」と名付けているのは旅のラゴス/筒井康隆。
たくさんの本の中から一瞬で旅のラゴスを選び出すセンスがうらやましい。

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本棚には、村上春樹の作品がほとんどそろっているけど、村上春樹が好きかどうかはわからない。

初めて読んだのはノルウェイの森で、「人がバッタバッタ自殺する話」という印象しか残らず、それから数年は村上春樹を読まなかった。

10年前の春、ハマスタへ向かう総武線の車中で、たまたま妹の本棚から持ってきた風の歌を聴けを読んだのを機に、また村上春樹を読み出した。さわやかな陽気の日だった気がする。
その後の私を待っていたのは「風の歌を聴けを超える感動がどこかに隠れているのではないか」という途方もないスプートニク探しの旅で、まだ見つからない。

村上春樹の世界には、自分が感情移入してしまう登場人物が出てこない。オシャレとされる世界を活字でただ淡々と追う。
御身/源氏鶏太を読むときの安心感に似てる。

春、今年もまた新しい本探しの旅に出たい。

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