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ちょっと長めの自著紹介②

当たり前のように購入させている
【モノ】・【コト】も、歴史を見直すと、
それが「当たり前」ではないことに
気づけることもあります。

例えば、
制服は洋装の導入と重なって登場しました。
和装が一般的だった時代に、
子どもたちがより動きやすく
快適に勉強するために登場し、
戦時期を挟んだ後、
中等教育の普遍化に伴って
拡大していったのです。

戦後のベビーブームで
子どもの数が急増した頃、
生徒管理を容易にするツールとして
学校の教員が望み、
また同時に
「割高な私服を何着も買うよりは
制服を購入したほうが割安にすむ」という
保護者側の需要があり、
普及していったのが制服です。

それでは、
現代も同じ理由で制服が必要でしょうか?
堅苦しい制服よりも、動きやすく快適で、
しかも割安な衣服はたくさんあります。
子どもの数は減少傾向、
しかも制服指導にかかる教員負担を考えれば、
制服の存在自体が働き方改革を阻む
【モノ】という考え方も成立するでしょう。

保護者負担にしているものを
支払わない・購入しない、
ということがあると、
学校関係者からは「問題だ」と見なされ、
他の保護者からは「ずるい」と思われるのが
現代の多くの学校です。

「みんな同じ」という前提が
崩れるからでしょうか。
本当にそれは必要か、必要だとして
それは全員同じでなくてはならないか、
誰が費用負担をすべきか、
という検討をすっ飛ばして、
「みんな同じ」という思考停止に
甘んじていることは少なくないと思います。

ではどう考えていけばよいのでしょうか。

本書は教育費というお金の話を
切り口にしていますが、
根底にあるのは、子どもの権利保障です。

制服や指定品の購入・着衣の強制や
その逸脱の禁止は、
子ども自身が自分の容姿を決定する権利を
著しく制約するものです。

時にその強制は、
暑いのにワイシャツを脱げない、
寒いのにコートを着ることができない、
という身体の自由侵害にもつながります。

指定の制服を着てこないと校門をくぐれない、
入学式に出席できない、
みんなと同じ教具やワークがないと
授業を受けることができない、という指導は、
子どもの学習へのアクセスを阻むものです。

子どもの権利保障を視点に置くと、
隠れ教育費の現状がいかに問題か、
よく見えてくると思います。


■おわりに

本書は、事務職員だけではなく、
教員その他学校関係者、保護者、
そして中高生くらいの子どもたちを読者として
想定して書きました。

それは、隠れ教育費の全貌は
その4者の視点を合わせないと見えてこない
と思うからです。

立場が違うので、
考え方も意見も正反対のことも
あるかもしれませんが、
本書がきっかけとなって、

「私はこれが必要ないと思う」
「もう少し安いのはないのですか」
「一人一つ必要かな」

という対話が各学校で
始まることを願っています。

そしてまた、
そうした対話においては、
多数派の論理ではなく、
少数の人々の声に耳を傾けてほしいと思います。

男女別の制服は着ることができない、
肌が弱くて指定品はつらい、
教材は買うつもりだが
使う頻度が少ないなら買いたくない、
放課後は自由にしたいので部活には入らない、
修学旅行には行きたいけれど
大きなカバンがない、
不登校だけれど給食費を払い続けている……

9割の人は問題だと感じなくても、
1割の人にとっては大きな問題と
感じられることがあります。

自分が常に多数派とも限りません。
自分が少数派になる可能性は
いくらでもあります。

新型コロナウイルスの
感染拡大・緊急事態宣言の発動により、
保護者の労働環境や家計が大きく変動し、
学校の役割や教育計画が
大きな見直しを迫られています。
卒業・入学式が簡略化され、
運動会や修学旅行が延期され、
教材購入も給食もストップ。

授業中はグループワークができず、
教員が一斉講義形式で
授業せざるを得なくなっていますし、
【モノ】の共有も
感染リスクがあるともいわれています。
PTAも休止のところは多いと思います。

その下で、
前例踏襲の隠れ教育費の問題性も
浮かび上がってきています。

今の状況が終息した後は、
「みんな同じ」が通用しない
局面にあるでしょう。

今こそ、さまざまな事情にある子どもの
学ぶ権利が保障される学校教育のあり方を
4者の立場から考えませんか。
──隠れ教育費の視点から。
                                        (福嶋尚子)

♯隠れ教育費
♯学校指定品
♯学校徴収金
♯保護者負担金
♯義務教育費無償

『学校事務』2020年7月号 
特別企画2「自著紹介『隠れ教育費 
──公立小中学校でかかるお金を徹底検証』 
/栁澤靖明・福嶋尚子」より許可を得て転載 
https://www.gakuji.co.jp/archive/book/02605-7-2020.html
--- 
http://www.tarojiro.co.jp/product/5935/

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