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サービス付き高齢者住宅~コロナ陽性者の生き抜く力~

#食欲を充足するには 、食事介助で食べる
#動く力があるなら 、少しでも離床する
#自らやりたいことを 、他者の支援で全うする
#あきらめない気持ちを支える
#一日の変化を言葉にして 、褒める。褒める。

コロナに感染し在宅酸素導入した高齢者(90代後半)のケース

2022年12月30日発症(発熱・咳・喀痰・低酸素・食欲不振)

発症日の午前中は、ベッドに横たわったまま微動だにせず過ごしていた。
前日までは、ベッドから車椅子に自分で移動もできるし、車椅子を手と足を使って運転してはエレベーターも使いこなし、移動をしていた。
食堂まで移動すると、家族の差し入れのジュースや肉まんを食べるのが楽しみで、受け取ると自分の部屋に移動をして召し上がっていた。
食欲旺盛、一日3回の食事は残さずに召し上がり、好き嫌いはなかった。
これまでの食生活から、肉付きも良く、BMIも25ある。

チョット介護現場のリアル

 朝食、昼食も食べる気にならないようで、ベッドに横たわっている。
コロナ陽性と診断後は、施設内のゾーニングのレッドゾーンに移動。
1モータの背上げと足上げが一体式のベッドに横たわり、キャスターもないベッドに臥床している。
病院勤務の看護師であれば、キャスターのないベッドに横たわる患者などケアをすることはないと思う。動けない人をケアするには、多人数のケアワーカーが協力し、患者に負担がないように速やかに安全に援助を行う。
ところが、介護の現場は、ベッドの高さが低床であることが原則になっていたり、キャスターがあるから動いてしまい転倒のリスクがあるとして、動かせないようになっている。
全ての高齢者施設がそうなっている訳ではないものの、管理者やケアマネの観点で環境が決められてしまっている。

ベッドの左右からケアワーカが、協力しながら利用者の身体の向きを変えたり、体をベッドの頭側に引き上げたりできない。
そもそも、利用者が一気に活動レベルが低下した際に、ケアの必要度が上がることを考慮に入れていないのが見てとれる。
ケアをしない管理者や、個別性を把握しようとしないケアマネがサービス計画を練ったりしていると最悪だ。

ベッドが適していないし、ベッド上で食事をするためのオーバーテーブルも準備されていない。それすら、環境の設定不足であるといっても、効率や安全、利用者の日常生活の動きを知らなければ何が必要かも考えれれないし、現代の介護用品に精通していなければ何があるの知識も持たない。


であるならば、知識のある人間に聞いてみれば、
『百聞は一見に如かず』
と、なろうものが、聞く耳も持たず、たった一度のサービス計画が、ただただ続くこととなる。
 医療現場での、看護計画に評価修正といった視点を持つのは周知のこととなっているのであるが、介護現場には、計画を見直す習慣や記録を残すことに、必要性を感じていないようである。

介護保険が2000年に導入され、今年で23年の月日が経過しいるのに、介護現場のスタッフは、これまでどのようコミュニケーションを図り、ケースカンファレンスを実践していたのか、していなかったのかが見えてしまうのだ。

京都 二条城 もみじのライトアップ


在宅酸素の導入と発症当日の食生活

夕刻までには、在宅酸素の器械が搬入され、酸素を鼻腔カニューレで投与開始した。流量は、2ℓ/分。投与開始で、経費的酸素飽和度は、91%から99%へと改善した。

15時
お茶や水分を、口元に使い捨ての紙コップで運び入れ、ストローで飲んでいただくように、頭を30度の角度にして、口元に運ぶと紙コップに入った150ml余りを、ストローで一気に飲み干す力があった。
喉が渇いていたのだと思った。
「おいしい」という。

18時
お部屋に使い捨ての容器の盛り付けられたお食事を運び、食欲があるのかを訪ねると
『うん』
と、反応が返ってくる。
30分くらいで、主食も副食も召し上がった。

食後の入れ歯をご自身で取り外していただき、口の中を磨くのをケアし、うがいをしていただき、きれいに洗い終えた入れ歯をはめていただいた。

コロナ感染で呼吸機能が低下し、酸素療法を開始したところ、咳と痰が出るものの、経皮的酸素飽和度は、上昇した。
在宅酸素がなかったら、一気に低酸素血漿に陥っていたのは、予測できる。
入院はできなくとも、一つの命はこの世と繋げたのだとホッとした。
これからの数日間、食事と水分量を維持し、床ずれを作らないように注意しながら、やる気を萎えさせないようにしたいと思っていた。

頑張っているのはご本人で、食べようとするし、飲もうとするし、
『ベッドからずれて下に下がっているので、足の力と手の力を使って、元の位置に戻ってください。』
といえば、
『できるよ。やるよ。』
と言う。
『100歳までは、頑張る。』
その言葉が、この利用者の口から発せられる言葉であり、その思いを何度もうかがっている。

発症2日目ベッド臥床で体力温存


発症2日目、発熱と咳と痰は、相変わらず続いている。
咳き込みが強く、肋骨が骨折するのではないかと思うほど、激しく咳をしては、呼吸をする様子が体力を消耗させていると感じてみていた。

入院をしたとしてら、施設よりはケアするものにとっても、ケアされるものにとっても、よい環境のベッドが用意され、点滴も入り急性増悪時の対応も可能だろうが、入院調整センターがベッドを確保できなければ、どうにもならない。
この高齢者施設内で可能なことを、看護実践をして、最善を尽くすのみ。
朝、昼、夜と食事介助をすれば召し上がってくださる。
水分も、摂取してくださる。
動いた方がいいと協力動作を依頼すれば、苦しいながらも必要なことを行動して下さる。

発症3日目早期離床
~一人でトイレに行けるもん~

発症3日目。
ベッドから離床して、肺機能を使うように車いすに座っている姿勢を保つようにした。
機能の低い介護ベッドは、30度も頭を上げると、膝も曲げながら足が挙上され、腰から屈曲してしまう。
昼食後に、『ベッドから車椅子に移って過ごしてみませんか。
その方が、肺が拡張しやすく、寝ているよりも肺炎のリスクが少なくなるからです。』
と説明をする。
『大丈夫。できる。』
とおっしゃる。

言葉では、やる気力を示して呉れてはいるものの、2日間寝込んでいた高齢者の筋力の低下を考えると、なかなかの挑戦ではあった。
ケアワーカーと2人で、利用者の膝折れに気を付けながら、腰を支え、車椅子に移動していただいた。

二日間寝てすごした身体は、膝に力が入らず、日本の足で立っている姿勢を保つには、並大抵ではない手の力を使っていた。
『う~ん、う~ん』
身体に力を入れるあまり、利用者さんからは、唸り声が漏れていた。

楽ではないし、呼吸機能も低下しているので、酸素消費も増えるゆえに、心拍数も上昇する。
ベッドから移動するだけで、脈拍は109を示していた。
酸素を問いよしていても、一時の酸素消費量の増大は、経皮的酸素飽和度も9%に酸素をしていても下がっていた。

『苦しいですか?』
と、移動後の自覚症状を尋ねてみるが
『大丈夫』
と答える。

苦しいしはずだ。
それでも自分でやってみようとするその前向きな心が、コロナで体力も落ちていながら、自分自身の身体を動かすように手足に指令を出し、実際に動かす行為をする。
並大抵の精神力ではないと思った。
目の前にいらっしゃる、コロナに感染しながらも、やる気を見せるこの高齢者の姿に、頭が様下がる思いだった。
とともに、感動すら覚え、決してコロナで命を落とさせないと決心していた。


これまでの人生において、この方は諦めたり、投げ出したり、悲観的になったりしても這い上がり、常に前向きに生きてこられた方なんだろうなと、生き様を想像をした。

コロナ発症3日目の利用者さんは、予想外に滑舌も良く、おしゃべりだった。
話をすれば、息を吸い込む必要もあり、咳も出るし、痰もでる。
苦しいはずなのに、酸素を鼻腔チューブで吸い込みながら、一生懸命お話をしてくださった。
旅好きで、たいていは一人旅で行きたいと思ったところには、出かけて行ったという。
カナダが1番良かったと言う。また一人旅の目的は、その土地の写真を撮ってくることだったとも話してくれた。
70代まではゴルフもやっていて、足腰は強かったようだ。しかし80の声を聞くと、ゴルフ場を歩くのが厳しくなって、行かなくなったという。
今でも、できるなら、ゴルフをしてみたいと話してくださった。
大好きだったゴルフプレーができなくなってからも、新聞のテレビ欄を確認しては、テレビ観戦を続けている。
プレーをせずとも、ゴルフ好きにとっては、至福の時のようだ。



1月1日、この日の夕刻。16時
お部屋に伺ってみると、先ほどまで車椅子に座って静かに、テレビを観ていた姿が、目に入らない。

トイレを覗くと、便座を上げたままで、トイレの便器にお尻がすっぽりはまっていた。ご本人は、そのことに気づかず、
『立てなくなっちゃったよ』
とつぶやく。
私の顔を、便座におしりが、すっぽりはまった姿勢のまま、見上たのち、
ふと、自分の左腕にある時計に目を向けた。

『車椅子で、ここに移動するのに1時間掛かっちゃったよ。』
その言葉には、これまで通り自分の力で車椅子を動かし、トイレで排泄をして、排泄行為は自分の力で、全うしようとする姿が伺えた。
ところが、酸素吸入を外してしまって、1時間も車椅子を動かしたうえで、ズボンをおろし、リハビリパンツを下げて、座るまでの行為を頑張った結果は、一気に低酸素をきたしていた。

便器からおしりを脱出するよりも、酸素を投与して、経皮的酸素飽和度の回復が最優先だった。
この方にとっては、一気に全身の酸素が足りない状態を作り出してしまっていた。心臓はバクバク、脈拍はアップ、酸素飽和度は92%

頑張りでご自身の身体にとって酸素が足りない状況を作り出していたものの、それでも頑張って自らを動かしている。その行動は𠮟責するものではなく、称賛しするほかないと思った。
『1時間も自分で車椅子を動かし、トイレの便座に移動できるほどに、回復してよかったですね。
100歳まで、お元気に過ごせるでしょう。』
『そうかな』
と言って、にっこり笑っているお顔が思い出される。

んばってここまで動いている。90歳代後半のこの方の踏ん張りを私は称えるしかないと思った。

ただ今は無理しないで、トイレに行く時と移動時は頼ってくださいとお話しをした。

逆境にあっても底力を発揮
~生命力を高める精神力~


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 ご本人にとっては、コロナに感染すると言う大変辛く、苦しい日々をお過ごしになったはずであろう。
その苦難をも、前向きにとらえて、自分にできることを全うしようとする生き方には、年齢と言うものよりも、その人の生き様が輝いて見える一瞬だった。
あまた入る高齢者とひとくくりにするには申し訳なく、この人にはどんな言葉をかけると、今以上にモチベーションを高めて、1日も早く回復してくださるのか。そんなことを考えて声をかけ、回復を願い、ときには無理をなさらずに、お食事の時間は介助でエネルギーの消費を少なくすると言うことも提案しつつ、元気を回復していく姿を拝見してきた。

1月23日の月曜日、コロナに感染してからほぼ3週弱で、やっと酸素投与から離脱し、酸素供給もなく室内の空気で十分に生活できると言うところまで回復してきた。
この先、コロナ感染以前のように、手や足を使って、車椅子で自由に施設内を動いて、食べたいもの飲みたいものを自分で取りに来ていただいたり、車椅子を使って食堂まで移動したりしていただきたい。
生活に必要な運動機能を高め、長生きをしていただきたいと、声をかけては笑顔を見ていたいと思う。
『ありがとう』
の言葉がしり上がりで、いう癖がある利用者さん。
あなたが、100歳をお迎えになる日まで、健康の維持と増進を観点に、かかわらせていただきます。

2022.1.24(火)
MILK


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