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変わっていくもの

はじめそのつけ麺屋を訪れたのは、7年ほど前のことだ。

近くに住んでいた私は、当時付き合っていた人と、よくそのつけ麺屋へ行った。小さい店内、当時はカウンター10席くらいだったように思う。くる客くる客に、店主の女性が元気よく笑顔で声をかけ、客も笑顔で帰っていく。
どのつけ麺もおいしく、また、新幹線が停車する駅に近かったこともあり、県外からの客もいたようだった。私たちもそこでつけ麺を食べ、店主の女性と話し、いつも元気をもらっていた。
「いつもありがとね!またきてね!」
地元から車で3時間ほどの知らない町。彼女のあたたかさはとてもありがたかったことを覚えている。

2年ほどして、私は心身の不調により仕事を退職し、逃げるようにその町を去った。そのため、体の調子が戻り転職しても、なんとなく足が遠のいていた。その間につけ麺屋は雑誌に掲載され、多くの人が知る人気店となった。

先日、5年ぶりにその店を訪れた。店舗は大きくなり、店員は増え、当時のこじんまりとした雰囲気とは大きく変わっていた。つけ麺は相変わらずおいしく、店主の女性も変わらずそこにいた。客に話しかけてはいたが、当時のような溌剌とした感じはなく、笑顔も少なく疲れ気味のようだった。目が合ったときに、ふと悲しげな表情をしたようだった。この日は今付き合っている人と来ていた。彼女の表情を見たら、心が小さく傷んだ。

そっか。つけ麺の味は同じだけど、あの時とは違うんだ。
5年が経ち、仕事も住んでいる場所も隣にいる人も変わった。
つけ麺屋は繁盛して彼女は少し疲れていた。

いろいろなことが変わっていく。それはこれから先もずっとそうなのだろう。辛いことがあって前の人とは別れたが、あのころにはあのころの幸せが確かにそこにあった。これからもいろいろなことがあるだろうけれど、ふり返ったときに、楽しかったと思えるといい。

麺をゆでる湯気、蒸気の音。ふつふつとスープを煮込む音と出汁の香り。その中に、笑顔の彼と店の女性と私がいる。注文を待つ時間、そんなことを思った。

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