シジマールの「男が歌う女の歌」ベスト10



 日本の歌謡曲の歴史には、歌詞の中に女性が登場して、その女性がヒロインのドラマ仕立てのようになっている歌や、、独り言のように、これでもか、と女心を歌い上げる歌が多く存在します。


 これら女性のために書かれた歌は、女性の歌手がそのまま歌い上げる、という場合が大多数なわけですが、、男性歌手が女心を歌い上げるパターン、、という伝統が、日本の歌謡界にはあるように思います。私は外国語のニュアンスがわからないので、、いわゆる洋楽の中に、女心を歌ってる男性アーティストが、どのくらいいるかはわかりません。。以前にI know him by heart  って歌を男性が歌ってるの聴いたことありますが、あれなんかは、いわゆる欧米における女心的な歌、を男が歌ってるパターンかもしれません。

 でも、やっぱり、女性が使うような日本語の言葉づかいが、英語やドイツ語にもあるような感じは、やっぱりしないんですよね。。どうも私は、、これら日本人男性、特におじさん、が、女の言葉づかいで歌うパターンの歌を耳にすると、、心のどっかでうへぇー、、と思いつつも、、でもやっぱり女性歌手が歌ってたら、、ここまでは胸を打たれないんじゃないかな、、という感慨を抱くことがあります。今回のベスト10は、男性歌手が女心を歌ってる歌ベスト10、てのを考えて見ることにしました。


10位  氷雨 佳山明生
 
  のませて ください もう少しー、、

 これ女性歌手も歌ってますけど、、やっぱり男の声で 「だれが待つと言うの? あの部屋で・・・。そうよ、誰もいないわ、今ではー、」って歌われると、、うわわー、ゾワゾワー、と来ながらも、妙な説得力を感じます。ちなみに、今上天皇は、これがカラオケの十八番で、、浩宮様時代から歌ってたみたいです。やっぱり、万世一系の男子と言われる皇族でも、これを男が歌うことの良さをわかってたのかもしれないですね。


9位 東京砂漠 
  前川清 内山田洋とクール・ファイブ

 
  あなたのそばでー ああ暮らせるならばー つらくはないわー この東京砂漠ー

子供の頃にダイア建設(その後経営破綻して存在しない会社)のCMで聴いて、明らかにおじさんの声なのに、、「つらくはないわー」って女の言葉づかいに違和感感じつつも、いざあのメロディが流れ始めると、立ち止まって釘づけになってしまう、、という歌でした。「いったいどんなおじさんが歌ってるんだろー、、」と聴くたびに思ってた歌でしたが、、だいぶ経ってからテレビで前川清が歌ってるのを見たときは、想像してたおじさんの顔と全然違ってて驚きました。


8位 蠍座の女 美川憲一


ここ20年くらいの間に紅白で何回も歌われていたので、美川憲一が歌うことの違和感は擦り切れてしまって、いまさらこれを聴いても何も感じない人のほうが多くなっていると思いますが、私は美川憲一が紅白に出始める前にこの歌を聴いて、結構衝撃を受けました。私自身が蠍座ということもあるかもしれませんが、、「紅茶が冷めるわ さあどうぞ それには毒など入れないわ」と言いながら、「蠍の毒は 後できくのよー」って、世の中の人が抱く蠍座のイメージってこれなのか、と思ったり、、。でも、この歌が紅白で何回も歌われたために、蠍座のイメージが形成された面も少なからずあるように思います。やっぱりこれ、女が歌ってたらあまり流行らなかったんじゃないでしょうかね。


7位 私だけの十字架 チリアーニ


ドラマ 「特捜最前線」の最後にかかってた曲。。ドラマのエンディングは、東京のビル街が空から撮影されたような映像が映し出されてるだけで、歌ってる人は一切画面には出てこないんですけど、、、「これ歌ってるの、絶対日本人じゃないなー」って子供でもわかるところも特徴でした。。歌詞に出てくる独白の主人公が、女性をイメージしているかは、歌詞だけからは判別不能、しかも男の声なのにも関わらず、「絶対女だな、この曲の主人公は。。」と思わされるところが、、この曲の凄さかもしれません。歌ってたチリアーニさんは、「これ、クロード・チアリが歌ってるんだろう、、」、とよく勘違いされていたらしいですが、子供の頃の私も、白子のりのCMにギターを抱えたクロード・チアリが出てくるたび、この曲と結びつけて考えてました。クロード・チアリは、自らは一切歌ってないのに、この曲のおかげで随分得をしたんじゃないか、と思われます。

  あの人は あの人は わーたーしーだけの十字架〜


6位 飾りじゃないのよ涙は  井上陽水

 陽水が中森明菜のために提供して、明菜が流行らせた後に、井上陽水が自分でセルフカバーして歌ってた歌ですね。これに関しては、陽水が歌ってるのを聴いたとき、「明菜が歌ってるほうが断然好きー」と思いつつも、陽水の歌い方を聴いて、、「ああ、あの明菜の歌を、この人が考えて作ったんだー。。」と感慨深かったのは確かです。明菜の歌には、愛されない、ちょっとドロドロした女のイメージがあったのに、陽水って、そういう感情を超越して、まるで何も考えてないかのようなクリーンな境地で、ドロドロした歌を作ったり歌ったりできるんだなー、、、と思わされました。

「わたしは泣いたことがないー」って、明菜が歌うと、悲しいことがあっても、感情を表に出さないでいる女性のイメージがありましたけど、、陽水が歌うと、あー、陽水ってほんとに泣いたこと無さそう、そもそも泣きたくなったことがなさそう、、って、ものすごく渇いたイメージを感じました。

  飾りじゃないのよ涙は ハッハッー

って、もはや笑ってますもんね。。明菜がハッハッー、、って歌っても笑ってる感じはしないけど、陽水は、笑ってる感じがします。どんなに悲しいことがあっても、陽水って、ハッハッーて感じなんじゃないかな。。勝手なイメージですけど。


5位 神田川 南こうせつ

  あなたは もう 忘れたかしら

で始まるあまりにも有名な歌ですね。歌詞のイメージ喚起力という意味で、この歌から映画が作られたくらいなので、、みんなの心に、川沿いの、風呂なしボロアパート、貧乏な同棲のイメージがまざまざと植えつけられた歌じゃないでしょうか。。。歌詞には、三畳一間って出てきますけど、、三畳一間に2人って狭いですよね。。この歌が流行って、映画の「神田川」が公開されたのが1974年、フローリングの、おしゃれな高層マンションが舞台のトレンディドラマ「抱きしめたい」が流行ったのが88年。神田川の世界からトレンディドラマまで、振り返ってみると結構短いですね。

 映画の神田川では、草刈正雄と関根恵子、という美男美女が演じてましたけど、どうも、わたしの場合、この歌に出てくる女の人って、南こうせつみたいな顔の女性がそのまま男と同棲してるイメージなんですよね。

 この歌にちなんだエピソードで忘れられないのは、南こうせつが、「本当はベンツに乗りたいんだけど、神田川で売れた以上、叩かれるのが怖くてセンチュリーで我慢してる」、という話です。ていうか、センチュリーもボロアパートの住人には似合わない高級車ですけど、、センチュリーなら怖くなくて、ベンツだと叩かれるのが怖いって、、、。「若かったあの頃 何も怖くなかった」って、こうせつも、、怖いものがたくさんできたんだなー、ということで一つ。


4位 22才の別れ 伊勢正三



神田川を思い出すと、次に思い出すのがこれ。。
誕生日にろうそくを立てるシーンて、明るくてポップなイメージですけど、この歌のそれは暗いですね。

  17本目からは一緒に火をつけたのが、昨日の    ことのように

  今はただ 5年の月日が長すぎた春と言えるだけです

  あなたの知らないところへ嫁いでゆく私にとって


人生で、長すぎた春、だとか、嫁ぐ、って言葉を知ったのはこの歌が最初だったように思います。この歌の中に印象的な歌詞はいろいろありますが、、一番はここかな。


   私には 鏡に映ったあなたの姿を見つけられずに

   私の 目の前にあった幸せにすがりついてしまった

これ聴いたときに、自分を鏡に映して見たときに、、一緒にそこに男が映ってるイメージって怖いな、、、と思ったんですよね。。。なぜか、そのイメージは、男女が2人並んで映ってるんじゃなくて、男が背後にヌっと立ってるイメージなんです。。。。小学生の頃、この歌が雨宮良主演のドラマに使われてて、友達とこの歌について話していたら、友達が、「鏡に映ってる男がこうせつだったら逃げるでしょ。」って話していたのが忘れられません。


3位  水中メガネ  草野正宗


 これは、今までの曲と違い、知らない方の方が多いかもしれない歌ですね。。松本隆という天才作詞家がいますけど、その松本隆の歌詞に、日本の作曲界の才能が結集して、いろいろな歌を提供する、、という企画があり、、私の大好きなスピッツの草野正宗もそこに参加して、曲をつけたものです。。もともと、女性の歌手に提供されたものですが、後から草野正宗自身もセルフカバーで歌っています。

 ラブラブで同棲していた男女が、歳月とともに次第にときめきを失って、相手の男に、もはや関心を持ってもらえなくなった、女の子側の微妙な気持ちを歌っています。休日に、同じ部屋で2人ダラっと過ごしているのに、、男は漫画に夢中で、、女の子は孤独を感じる、、という場面も、、鮮やかに浮かび上がります。。この歌にも、ヒロインが鏡の中をのぞき込むシーンが出てくるのですが、鏡の中に映るのは、自分なはず、の女の子、だったり、男の子、だったり。。。なんか、まだ別れてはいないんだけど、失恋の予感を感じている女性が、、自分を女性、ではなく、幼い女の子みたいに感じたり、男の子のように感じる防衛反応、、って、、わかる気がしますね。。でも、最後に鏡に映し出されるのは、「見知らぬ女の子、、」ってところに、、失恋しても、新しい日々が始まるような、このヒロインの抱く、孤独な希望を感じます。。
 この歌に描かれているのは、小さなアパートの一室なのに、、部屋にいながらにして、寄せては返す波を感じさせる歌で、、これから来る失恋を予感させながらも、すごく官能的、、と言ってもいいような歌だと思います。何回聴いても、秀逸な歌詞とメロディ、、草野正宗自身が、若干中性的な声質、キャラなので、、ここに出てくるヒロインのイメージとピッタリで、、おじさんが東京砂漠を歌ってるようなゾワゾワ感は全くなく、、不思議な浮遊感漂う名曲になっている、と思います。



第2位 元祖天才バカボンの春 こおろぎ'73

  天才バカボンの春

  枯れ葉散る白いテラスの午後3時

  じっと見つめてほしいのよ〜


 やっぱり、これ、「おじさんが女のセリフで歌を歌っている、、!」、、という違和感を人生で最初に感じた歌かもしれないです。すごく哀愁漂うメロディに、、「枯れ葉散る白いテラスの午後3時」、、という歌詞からは、、あ〜、これ秋なんだな〜、、と思わせられるんだけど、この直後、急に軍歌のような、、「巨人の星」のような勇ましいメロディに転調して、「41歳の春だからー」ってなるんですよね。。。え、春なんだ、、ってびっくりするんだけど、子供の私には、41歳、ってものすごく人生で年を重ねた人、、、ってイメージで、、、なんか、この、「よんじゅう いっさい」って数字と音の響きが、、軍歌の足音みたいな力強いリズムと相まって、、生きてくのって大変そうだー、、、って、意味もなく子供心に感じさせられましたね。。。その部分に差しかかると、アニメでさんざん笑わせられるバカボンのパパのギャグを見た後で、「バカボンパパって、41歳なんだー、、大変そう、」って、気を取られて、もはや、季節が秋か春かはどうでも良くなってくる、、という不思議な歌でした。。しかし、、途中の、「じっと見つめてほしいのよー」、は、明らかに女っぽいセリフなんだけど、、「見つめてほしい、って気持ちになってる主人公は、バカボンのパパなのかなあ?」って考え始めると、また、不思議な気持ちになる歌でした。 



第1位  バスストップ 平浩二


  バスを待つ間に 涙を拭くわ 知ってる誰かに見られたら  あなたが傷つく


これに関しては、ゴタゴタごたくを並べるのはやめて、歌をお聴きください、とだけお伝えしておきます。


いかがでしたでしょうか。シジマールの独断による、男が歌う女の歌ベスト10、ってことでしたけど、、、その歌ってる男の人が、おネェ系なのか、そうでないのか、ってのも、微妙に聴いてる側に影響与えるような気がしますね。。。しかし、いくら好きなもの、とは言え、何か10個挙げて、それについて何か語るというのは意外と大変だとわかりました。とはいえ、ここにあげてない男が歌う女心の名曲、、まだまだたくさんありますね。。あずさ2号とかは、入れたくても入れられませんでした。何らかのこだわりベスト10、誰でも持ってると思いますが、もし良かったら教えてくださいね。では!

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