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鰯と柊 Beginning

綺麗な灰色の瞳。こんなに他人の瞳をまじまじと見たのは初めてだった。
初めて、綺麗って、感情を覚えた。
小動物のように常に何かに怯える仕草。物音一つに身体がビクッと反応し、振り上げられた手の動きを目で追う。あぁ、こいつも同じなんだ。
私と同じ、”奪われてきた”人間なんだ。
「怖がらせてごめんな。俺は撫子。今日から家族?らしいよ」
握手を求め、彼女を怖がらせないように、下からゆっくり、手を差し出す。しかしやはりその手にあとずさりし、俯いてしまう。
「おまえ、名前は?」
彼女の負担にならないように、対面から、すっと隣に移動して顔を覗き込む。こうすると怖くないよね?わかるよ、君は私だからね。
彼女は必死にこちらに何かを発声しようとする。
「いいよ、無理しなくて」
愛おしくなり、髪を撫でる。
「おまえは家族だ。私の家族」

肉親から、あの男から、私のすべてを奪われた。
私の時間を、自尊心を、心を、右眼を、腹ん中を、生き物としての、普通の人間としての、普通の女の子としての、未来も全部全部、奪われたのだ。
片眼と命だけが残されて、捨てられてた人形に、大人達は残酷にも、ゼンマイを巻いたんだ。

奪われ続けた私に、突如できた家族。唯一無二の。神様のよう。
こいつは私だ。
もう絶対に、何人たりにも、奪わせない

気がつけば、骨を折るんじゃないかというほど、彼女を抱きしめていた。
「ゆ、、、ら」
身体越しの振動も助け、彼女の声を聞くことができる。
「ゆら!そうか、ゆらか!ゆら、、、ゆら、、、」
奪わせない。もう私から何も奪わせない。
私は奪う側になるんだ。
私のゼンマイが巻かれた意味はきっと。

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