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虫送り…サネモリサマ…道祖伸…その謎を解き明かす!

ようこそ民俗学研究室へ、主任研究員の天道巳弧です。
今回は夏の風物詩でもある『虫送り』について解説します!
「そういえば名前は聞くけどなんだろう?」と思った方、「もっと知りたい!」と思ったはぜひご覧ください♪

音声で聞きたい方はこちら!



虫送りとは

稲につく害虫を追い払う行事。
虫追い・虫祈祷・サネモリオクリ(実盛送り)・ウンカ送りとも。
農薬による虫の駆除が一般的になるまで日本各地の農村で盛んに行われた。

江戸末期に、幕府の御用学者だった屋代弘賢(やしろひろかた)が、諸国に風俗に関する質問状を送って答えを求めた『諸国風俗問状答(しょこくふうぞくといじょうとこたえ)』にも、各地の虫送りの様子が記されている。

この虫送りの対象となるのは主にウンカだった。
ウンカの被害が大きかった西日本では特に盛んに行われ、一方冷害が大きかった東日本、特に東北地方ではあまり盛んではなかった。

農薬が普及した現在では虫送りの習俗はほとんど廃れてしまっている。
現在は虫よけよりも地域の伝統行事という側面で復活している場合がある。

虫送りが行われる時期は田植え後の5月、次に梅雨明けのころにやってくる夏土用から、害虫が発生しやすい7月ころだ。
いずれも5~7月の、稲の生育において重要な時期だ。

虫送りの流れ

1.村人が神社か寺に集まり神事や法要を行う
2.松明を焚きながら鉦(かね)と太鼓を鳴らし、大声で呪文を唱えながら行列を組んで水田をめぐる
3.稲についた虫を集めて村境まで送り出す

行列は田んぼのあぜ道を道順なく自由にめぐる場合と、サネモリミチといって決まった道順でめぐる場合がある。
呪文は「斎藤別当実盛、稲の虫は死んだぞ、あとは栄えて、エイエイオー」「送った送った稲の虫送った」「ナンマイダー」など。

実際の虫送りの例

・寺が大きく関わっている場合は『大般若経』を持ち出し、水田に向かってめくり祈る
・四国では水田をめぐりながら虫を数匹捕まえて、竹筒に入れたり紙に包んだりして捨てる
・西日本ではサネモリサマ(実盛様)という麦わらの大きな人形を担ぎめぐる

サネモリサマ

『平家物語』によると、斎藤実盛は平氏に仕えて木曾義仲(きそよしなか)軍と戦った。
その際、決死の覚悟で白髪を黒く染め、錦(にしき)の直垂(ひたたれ)という衣装で出撃し戦死した。
この話は能の『実盛』の題材にもなっている。

実盛は稲株につまづいて討ち死にしたため稲の虫になった、また田の中で討たれるときに「稲の虫となって恨みを晴らしてやる」と言い残したと伝わっている。

この伝承から御霊信仰と言霊信仰の二つの考え方ができる。

御霊信仰

御霊信仰(ごりょうしんこう)とは大きな災害や疫病の発生を、怨みを持って死んだり非業の死を遂げた人間の「怨霊」のしわざとして怖れ、怨霊を祀り「御霊」とすることで祟りを抑えて繁栄を願う日本の信仰のことだ。

サネモリサマの場合、討ち死にした実盛の怨霊が稲の害虫となり悪さをするので、実盛を祀ることで虫の被害を防ごうとする考え方だ。

言霊信仰

言霊信仰は言葉そのものに霊力が宿っているという信仰だ。

サネモリサマの場合、サネモリという名前が稲の実、つまり「稲のサネを守る」という音に通じることから、実盛を稲を守る霊験の神とする考え方だ。

村境

行列は最後に村境へたどり着く。
そこで虫を外に送り出し人形や松明を焼き捨てて終わるか、焼かずに川や海に捨てる場合もある。
また村境に札を立てて村内の安全を祈る場合もある。

山口県長門市などでは、藁人形のサバーサマを上流の村から下流の村へリレーし、最後の村が海に捨てる場合もある。

道祖神

サエノカミとも読まれるこの神は境界、境目において旅の安全を祈り供物を供えることなどから、「道祖」と「祖神」が同一の神と認識されこの表記になったと思われる。
境には荒ぶる神がいて旅人を悩ませるという信仰は風土記にもあり、現代の民俗にも存在する。
境に祠や石碑がなくても峠には境の神がいるとして供え物をするところもある。

どこを境とするかはそこで生活する人々によるが、人々はみずからの生活世界を維持するために境を設定する。
人々は境で道切りの儀礼をおこなったり、祭りや流行病に際して注連縄を張ったりすることも多い。
そのような境を特別視し、そこで祀られている神を一括して道祖神と呼ぶ。

また道祖神は悪病・流行病を取り除く神としても崇められている。
そのような意味で「虫送り」の最後は道祖神の広場に集まり、祈祷の呪文を唱え稲の病気・害虫を追い出した。

虫送りの目的

このような虫送りの行事にみられる点は、疫病や災いを村内で処理するのではなく、村の外つまり生活の外へ排除し、自らの生活圏の安定を得ようとする心理だ。
不浄の処理を『外』へ依存する志向性が特徴となっている。

各地の虫送り

青森県
 ・相内の虫送り(あいうちのむしおくり)
 ・奥津軽虫と火まつり(おくつがる むしとひまつり)

秋田県
 ・木境大物忌神社の虫除け祭り(きざかいおおものいみじんじゃのむしよけまつり)

福島県
 ・高橋の虫送り
 ・三島町の虫送り

埼玉県
 ・門平の虫送り
 ・立沢の虫送り

千葉県
 ・野田の虫送り

神奈川県
 ・川和の虫送り(かわわのむしおくり)
 ・南山田の虫送り

新潟県
 ・善願の虫送り(ぜんがのむしおくり)
 ・下田の虫送り(しただのむしおくり)

富山県
 ・床鍋の虫送り(とこなべのむしおくり)
 ・除蝗祭(じょこうさい)

石川県
 ・横江の虫送り

福井県
 ・虫おくり

長野県
 ・犬石の虫送り行事(いぬいしのむしおくりぎょうじ)
 ・東横田の虫送り行事(ひがしよこたのむしおくりぎょうじ)
 ・先達の虫送り(せんだつのむしおくり)
 ・日吉の御鍬祭り(ひよしのおくわまつり)

岐阜県
 ・虫送り

愛知県
 ・尾張の虫送り行事(おわりのむしおくりぎょうじ)
 ・矢田の虫送り行事(やたのむしおくりぎょうじ)
 ・祖父江の虫送り(そぶえのむしおくり)
 ・虫送り
 ・蝗除祭(こうじょさい)

三重県
 ・虫送り
 ・除虫祭(じょちゅうさい)

滋賀県
 ・いもち送り
 ・虫送り
 ・蝗除祭(こうじょさい)

京都府
 ・虫送り

奈良県
 ・虫送り

島根県
 ・鹿子原の虫送り踊(かねこばらのむしおくりおどり)

広島県
 ・虫送り
 ・風祈祷(かぜきとう)
 ・蝗除祭(こうじょさい)
 ・蟲送り神事(むしおくりしんじ)

山口県
 ・北浦地方のサバー送り

徳島県
 ・実盛さんの虫送り(さねもりさんのむしおくり)

香川県
 ・肥土山の虫送り(ひとやまのむしおくり)
 ・中山虫送り(稲虫送り)

愛媛県
 ・実盛送り

福岡県
 ・虫追い祭り

大分県
 ・小松明火祭り(こだいひまつり)

宮崎県
 ・虫追い
 ・除蝗祈願祭(じょこうきがんさい)

全47行事
虫送り:31
蝗除祭:3
除蝗祭:2
虫除け、火まつり、御鍬祭り、除虫祭、風祈祷、サバー送り、実盛送り、虫追い祭、小松明火祭り、いもち送り:1


いかがでしたか?
実態を知ると昔からの行事が少し身近に感じられるかと思います。
もしよろしければ地元の行事を調べてみてください。
きっと面白いですよ♪

ご覧いただきありがとうございました!
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