海苔の佃煮が給食の冷えた米には不釣り合いな話。


 私は熱々の米が好きだった。猫舌だからよく冷まして食べる。それなら冷たい米で良いじゃないかと言われるが、そういう話ではない。

 そして海苔の佃煮が大好きだった。然し全て使い切るまでに彼らは大抵忘れられ、数ヶ月後に冷蔵庫で発掘されることも屡々だった。そういう経緯もあり母は海苔の佃煮を買うことを拒んだ。それ故、私にとって海苔の佃煮は結構な贅沢品である。

 そんな海苔の佃煮と再開する日は突然やってきた。突然、給食に出されたのである。織姫と彦星ばりにドキドキとした面持ちで、海苔の佃煮と対面した。日直のいただきますの号令が待てず、私の手には既に海苔の佃煮が挟まれていた。いただきますを若干フライングして(やっと食べられる!)と思い、開封する寸前で何故か躊躇った。後悔しないか、疑心暗鬼になったのである。

 この冷えた米にこの海苔の佃煮が釣り合うのか。

 補足しておくが、冷えたご飯とはいえども、私は平成時代のピチピチ小学生だから、米もほんのりとは温かいのであった。それでもやはり幾分かは不足だった。自問自答を10分ほど続け、教室の海苔の佃煮の充満した香りを嗅ぎ、

 家で食べたい……持ち帰ろう 

 という阿呆みたいな気持ちが湧いたきたのである。

 学校は厳しく持ち帰りがバレたら一貫の終わりである。私は警告で済むのだが、愛しい恋人は処刑されるに違いない。

 誰か道連れにしたい。

 私の人間性がクソたる所以だ。その頃それなりに仲が良く教師から気にいられていた、とある女子を仲間にした。私一人では見つかった時の教師の機嫌がかなり悪くなる、そう考えたからである。

 「今日遊ばない?

あとね、海苔の佃煮持って帰ってくれる?

それで放課後一緒に食べよう。お願い。」


「なんで?家にご飯ないし……」


「持って行くから…!!お願い………」

 

 彼女の承諾と共に、戦いが始まった。目を盗んで互いに恋人を巾着に匿い、殆ど手付かずの給食を無心で飲み込み続け、何とか放課後までやり過ごすことに成功した。帰宅後すぐに炊飯ジャーの温かい米を握る。彼女への感謝と愛を込め、ハート形に握った。(私めっちゃ可愛い♡)別に帰宅後に米を食べることを咎められはしないが、何となく子供心に「ワルイコト」をしてる気がした。せめてもの償いで、ジャーの中の米をならしておくことしかできなかった。

 定刻になり、彼女の家へ向かう。楽しみで仕方なかった。DSでトモダチコレクションをしながら彼女は出迎えてくれた。

 「あ、Miiつくろー?」

 え、海苔……。と思いながらも、まあすぐに終わると思い、承諾した。





 それは大きな誤算であった。そこからトモダチコレクションにハマり海苔の佃煮のことなど全く忘れていたのである。

 翌日、潰れてシート状になったおにぎりが出てきた。私は無言でそれを処分し、中古のゲーム屋へ行きトモダチコレクションを300円で手に入れ、自分のMiiにおにぎりを食べさせた。

 ゲーム内の私は、恐ろしく激しいリアクションをして喜んだ。大好物だった。それからは罪滅ぼしに、と毎日Miiにおにぎりを食べさせたことは、言うまでもない。






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