ねぼけまなこのゆめばなし「荒野」

荒野に一軒、荒れ果てたようなアメリカ式の戸建てがぽつんと建っている。
老人が一人で玄関前のテラスのベンチに座っている。
その視線は地平線からこちらに向かってくる1台のトレーラーハウスに向けられている。そのトレーラーハウス以外に移動する人工物はない。本当の意味での最果てのような景色だ。赤茶けた大地には草木の一本すら生えていない。時折ローリンググラスが風に押し出されて通っていくくらいである。

トレーラーハウスを牽引するトレーラーのエンジン音が老人の耳に一段と迫ってきていた。老人は傍らの銃を持ち“来訪者”に雁行鋭く安全装置を外して身構えた。

「いやぁん!見えてから案外遠いのね!ここ!!!!!」
停車したトレーラーハウスから出てきたのは、執事姿の少年と見事な金の髪のレースとフリルそしてリボンが多めに着いたなんともファンシーなドレスを着た少女である。

厳つい荒くれ男が来ることを覚悟していた老人は、可愛らしい来訪者に一瞬たじろぎ引き金を引くのが一瞬遅れた。
「お客様に銃口を向け打つのがここの歓迎の仕方ですか?」
ライフルを美しい動作で取りあげたテールコートを着た青年がきつい言動を隠さずに、老人を睨みつける。
咄嗟に老人は懐に隠していた短銃を構え撃とうとするも青年にあえなく銃を振り落とされ、どうなったのか次の瞬間には床に腹ばいになり後ろ手に両手を押さえつけられていた。赤土の砂が髭の中に入るようであった。
「ありがとう、レオン」
「ありがとうではございません。お嬢様」
レオンと呼ばれた青年は顔色ひとつ押さえつけた老人への力加減も変えずに「だから私は反対したのです!」と嘆く。
「お探しものは専門部署のものがいくらでもおりますのに」
銃声とともにしわがれ声の大音声が荒野に響いた。
「じいさんから離れな!!!!さもなきゃ撃つ!!!」
レオンがかすかに微笑むのと同時に、少年執事が間合いをつめ一気に老婆を制圧した。今度は床に押し付けるのではなくあくまで紳士的にである。
「驚きましたね、サム。いつの間にそんなに腕を上げたのですか」青年が相変わらず老人を床面に制圧しながら笑う。
サムと呼ばれた少年執事は得意げな顔を押し殺して制圧している老婆に向き合っている。
「さて、私の質問に答えてくれるだけでいいの。殺しはしない主義なのよ。」
いつの間にか近づいてきた少女はフリルのドレスを甘酸っぱいコロンのコロンの香を漂わせながら可愛らしく首をかしげて行った。
「お父様の宝石、しらないかしら?」

各地をお散歩して歩いでいます 小説家未満 自分の文体をきちんと向き合って作っていこうと思っています。