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生活の戯れ

人生を振り返るという程大層な事でもないが、若かりし私はトップギアで悪路のアウトバーンを400キロ走行していた。死屍累々、早過ぎて死体すら確認出来なかった。

これ以上死人を出さない為にも、いる物いらない物、整理と整頓、管理と指針しっかりせねばと最近試行錯誤している。人に迷惑かけちゃだめ。そして忙しさにかまけて後回しにしていた、やらなければ行けない事を、一つずつ解決しようと一念発起した。

虫歯を治そう。

人生の回答は、いつも5歳児程度のレベルに帰結する。

取り敢えず、歯医者をネットで検索。3キロ圏内のみなのに、なんぼほどあるんじゃい!お話にならんので、口コミサイトをクリッククリックダブルクリック「歯医者嫌いの息子も泣かずに治療出来ました」「託児所完備されています」「保育士さんが付き添ってくれます」どうやら、お子さんを持つ主婦の方の書き込みが多いようだ。私は泥酔していなければ、泣きわめいたり暴れたり噛み付いたりはしないので、参考にならない。

結局、自宅から一番近い歯医者に通う事にした。


私くらいおおらかな人間ともなれば、余裕かまして10分遅刻で到着。同い年くらいの受付の女性に、挨拶もそこそこ無愛想に必要事項記入を求められた。怒っている。

診察室に呼ばれ、一人ファットボーイスリム歯科医と助手が笑顔で迎え入れてくれた。フランクフルトのような指が、私のおちょぼな口に入るか不安になる。

診察室に横たわり無事に先生の指はスムースイン。めをつむると、神経を逆撫でする例の機械音が明瞭に耳に飛び込んできた。と、同時に微かに聞こえるBGM。しかしなんだか気になるこの壮大なメロディ、、、

これは『バックドラフト』だ!次に『ゴットファーザー』映画のサントラを流しているらしい。人の趣味をとやかくいうつもりはないが、歯医者でこの選曲はどうだろう斬新。しかし私は大人だ、プロフェッショナルな仕事を前にして、良き患者となるべく努力することにした。

診察は滞り無く進み、時折いたわりの言葉をかけられつつ佳境に入ってきた。高音のドリル音が低音のドリル音へ。すると共に、か細く聴こえているBGMが子供の頃から良く聴き馴染んだ曲に変わった。


『ジョーズ』!!!!

痛くも痒くもなくリラックスしていた私の体は、条件反射的に固まった。反して曲はどんどん調子が上がる。掌は脂汗がじっとり。先生はニッコリ。額にも汗を感じる。私は心の中で絶叫した「早く終わってくれ!!」


懇切丁寧な治療であった。

次回の診察予約をしながら『シャイニング』や『オーメン』のBGMがかかりませんように、せめて『サウンドオブミュージック』でありますようにと願った。





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