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銀河廃線-演出家あとがき 後編「魂と身体と旅に出る」

演出家・振付家をやっております美木マサオと申します。

2023.3.19.(日)に演出をしておりました
Project未来圏『銀河廃線〜水色の蝉は転車台で宙を飛ぶ〜』の千秋楽の幕を閉じました。

Project未来圏とは 
脚本家・坂口理子を中心に、俳優を志す若者と現在現場で活躍中の演劇人との出会いと融合を目指す舞台ユニット。キャスト、スタッフとして、早い時期から第一線で活躍するプロと共に舞台芸術に関わることで、将来的にはアーティストとして、さらには観客として、舞台芸術を取り巻く未来の土壌を耕すことを見据えている。

Project未來圏web

今日のお昼に投稿した前編に続き、後編も演出家あとがきのようなものを書きたいと思います。ネタバレも含みますのでご了承ください。
脚本:坂口理子さんのとてつもなく壮大な世界を表現するためにやった演出方法、
その一部をお話したいと思っています。
前編もよければご覧ください。

そしてこれを読んで、さらに作品に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

それでは後編スタート。


初演から10年経ってのリメイクにあたって


後編は「男と女という役について」を中心に書きたいなと思います。

この銀河廃線という作品、実は10年ほど前に別の団体で公演した作品でした。
その時も坂口理子さんが脚本。
ボクはどう関わっていたかというと、もう1人別の演出家とともに共同演出 兼 出演をしていました。

この時は、十代のキャストなどはおらず、全てが大人のキャストで9人編成。
トキ・カンちゃん・エリという旅する3人も全て大人のキャストが演じていました。
それ以外の6人のキャストは様々なキャラクターを演じたり、作中の様々なイメージをアンサンブル的に見せるために活躍していました。


今回の再演というかリメイクは、
トキ・カンちゃん・エリを10代の子達でやる事から企画がスタートいたしました。
テアトルアカデミーの加藤央睦くん、米本奏哉くん、鈴木琉那さん。彼らに出ていただく事になりました。

彼らは本当に素晴らしい俳優の3人なのだけど、この作品のかなり重要な設定の一つに
「トキがとある事件から10年ほど引きこもっている」というものがありまして。
流石にこれを10代の子達で演じるのは無理があるんじゃないかとなりました。

例えば役者たちの年齢相応にやるなら、3、4才の時に起きた事件を10年も引きずるのか。
それってありえる?理解できる?
それとも現在のトキたちを20代後半としつつ、頑張って10代の子達にそれを演じてもらうのか。
それってうまくいく?


そこで、、、、

10代の彼ら3人が演じるのは、トキたち3人の魂みたいなものとしてみたらどうだろうと思いました。
引きこもったまま成長できていないトキの魂。
あの日に大事な部分を置いてきてしまったエリの魂。
あの事件で物理的に成長できなくなったカンちゃんの魂。
そんな3つの魂が銀河鉄道の旅ができたら素敵なのじゃないかと。

そしてなんとなく、
これは本当に演出家としての勘で、
前回の9人編成より少人数でやった方がいい気がしておりました。
なんとなく6人くらいがいいと。
とすると、あと3人かぁ。
作品に必要な要素はどんな役たちなのだろうか。


もう作品を見ていただいていたらお分かりかと思いますが、
「3人の魂を10代の子達が演じるとしたら、実像としてトキとエリの今現在の身体が必要だ」となりました。
最後はちゃんと解決して大人の身体になっているというラストシーン。

こうして、“男“と“女“という役が生まれました。
(もう1人の大人キャストは、大いなるもの。それを剣持さんに担っていただきました。これに関して詳しくはこの記事の前編をご覧ください)


なんと今回「男」役をやっていただきました山口翔悟さんは10年前の銀河廃線の初演時にトキをやっていた方なのです。
キャスティングの候補に山口さんの名前が出た時に、本当にもう彼以外に考えられないんじゃないかと思いました。

もう1人「女」役の千田阿紗子さん。
こちらはボクが何度も舞台をご一緒していて、ずっと信頼している女優。
「女」役のキャスティングも彼女になる事を強く強く願っていました。


魂と身体と旅に出る

さて“実像としてのトキとエリの身体“を山口さん千田さんの2人に演じてほしいとひとくちに言ってもそれは簡単なことじゃありません。

メインは10代の子達演じる魂たちが銀河鉄道を旅する物語だとしたら、
この作品の中で「男」と「女」はどういう立ち居振る舞いをするべきなのだろう。
最初と最後に現実的なホテルのシーンがあるのですが、そこだけ出てもらえばいいのかといえば、それはなんだかイメージが乏しい気がしてしまう。

それに銀河鉄道の旅の途中に出会っていく様々なキャラクターたちはどうしたらいいのだろう。
とりあえずこれをアンサンブル的に山口さんと千田さんが演じてもらうというのが妥当なのだろうか。

うーむ。

そこで一旦、
①身体である「男」と「女」と
②魂の「トキ・カンちゃん・エリ」とが
一緒に旅をすることにしてみました。
非常に抽象的な概念になってしまうが
「魂と身体が乖離してしまってる状態で、それでも一緒に旅ができないだろうか」

今作はたくさんの詩的なシーンや言葉が出てきます。
それらが出てくる銀河鉄道はどこまでも夢とも言えるし、現実とも言える。深層心理とも言える。

例えば実際の人間でも深層心理や夢の中で
「“身体“と“魂“がコミュニケーションを取る」という事はありそうな気がします。

それはとても演劇的な事だ。


演劇はなぜ魅力的なのか


俳優は演技のさなか、時に自分が思いがけない感覚に出逢うことがあります。
それを稽古場や舞台上で外から見ている人間が目の当たりにする事もあります。

そこに映像演技などでは決して味わえない、生の演劇という媒体の良さがあるような気がしています。


近年ボクはまた別のチームで、お客様自身が何者かになるような作品を積極的に作ったりしています。
何者かになる、ごっこ遊びをする、人によって仮面を使い分ける。
そんな事を通して、普段見れない景色をお客様に体験させる事に手応えを感じています。

そういった"自分ではないものになってみる"という行為が、
「身体と魂のコミュニケーション」に繋がっているような気がしてならないのです。


男がトキのためにふうちゃんを演じてみたらどうなるだろう。
女がエリとカンちゃんのためにかおる先生を演じてみたらどうなるだろう。
まるで大人が子どもに読み聞かせをしてあげるように。そして、読み聞かせをした大人の方にこそ気づきが起きてしまうように。


「舞台上に小道具衣装置き場がある」
「舞台上で着替える」
これも、"何者かになる"という事をお客様にも演者にも強く意識してもらうための演出でした。

「男」と「女」。
こんなにも難しい役を山口さんと千田さんに演じてもらえてよかった。
ホントにもう今となっては、2人以外に演じてもらう事は考えられない。


実は、序盤のエリ・山下さんシーンやトキ・カンちゃんシーンで、男と女に舞台上にいてもらったのですが、
その2人の居方がムチャクチャ好きでした。
ボクの小難しく抽象的な演出を、ここまでうまく表現してくれるのか。


これにてあとがきは一旦終わり。
リクエストあれば、若者3人(加藤くん、米本くん、鈴木さん)についても書きたいけど、それはまた別の機会に。

また皆さまとともに、どこまでも続く銀河鉄道の旅に出られます事を強く強く願っています。


いただいたサポートはさらなる表現を目指す活動費に使わせて頂きます。よろしくお願いします!