見出し画像

銀河廃線-演出家あとがき 前編「水に沈む、と、トンネルと」

演出家・振付家をやっております美木マサオと申します。

2023.3.19.(日)に演出をしておりました
Project未来圏『銀河廃線〜水色の蝉は転車台で宙を飛ぶ〜』の千秋楽の幕を閉じました。

Project未来圏とは 
脚本家・坂口理子を中心に、俳優を志す若者と現在現場で活躍中の演劇人との出会いと融合を目指す舞台ユニット。キャスト、スタッフとして、早い時期から第一線で活躍するプロと共に舞台芸術に関わることで、将来的にはアーティストとして、さらには観客として、舞台芸術を取り巻く未来の土壌を耕すことを見据えている。

公演が終わりましたのでここでちょっとネタバレというか、そんな事をしたいなと思います。
今作はどんなイメージを持って進めてきたのか、
脚本:坂口理子さんのとてつもなく壮大な世界を演出の観点からどう解釈していったのか、そのプロセスの一部を書き記したいと思います。
ちょっと長くなりそうなので、前後編で。後編は今夜(3/21夜)出します。

これを読んで、さらに作品に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

それでは前編スタート。


銀河廃線ってどんな作品?

まずこの作品をご覧になってない方に向け、ざっくりした概要を。
この『銀河廃線』という作品は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにした作品です。
劇中では「銀河鉄道の夜」で聞いたような言葉や状況がちょいちょい出てきます。

銀河鉄道の夜は、ジョバンニといういじめられっ子がクラスメイトのカンパネルラと共に銀河鉄道という謎の列車に乗り込み旅をしていくお話。
詳しくはネットなどでお調べください。
そして大きいキャラではないけどとても印象的なザネリといういじめっ子が出てきます。

このジョバンニ・カンパネルラ・ザネリという3キャラと対比するように、
『銀河廃線』では、トキ・カンちゃん・エリという3人がメインキャラクターとして出てきます。

トキたち3人は幼馴染。
ある事件がきっかけで13年引きこもってしまっているトキ。そんなトキにずっと食事などの世話をし続けているエリ。エリは活発で、男言葉のような快活な喋り方をする女性。
ある日トキの元にカンちゃんが風のように現れる。
「幻の廃線を見に行かないか」
そう言ってカンちゃんはトキを部屋から連れ出す。エリもそれを追いかけ、そして3人で銀河鉄道に乗り、、、、

といったお話。全体のストーリーはアーカイブでお楽しみいただきたい。


水に沈む、と、トンネルと

さて、ここから先は作品をご覧になっている前提でのお話となります。
ご了承くださいませ。

この作品、観てて違和感を感じる部分がたくさんあったかと思います。
それは演出として見せている部分もあるし、脚本上ですでにあったものもあります。

その中の一つ。銀河鉄道に向かう途中の“トンネルのシーン“が今日のお話の最初の焦点。

真っ暗な中、ランタンを片手にトキとカンちゃんが会話をしているシーン。
それまでイヤイヤ言いながらもなんとなく楽しんでカンちゃんについてきているトキ。
そのトキがトンネルの出口近くに来たところで急に出るのを怖がります。
それを赤ん坊のようにバカにするカンちゃん。

これはなんの事なのでしょう?
ひきこもりが外から出られないという事を、また別の形で表現しているのでしょうか?

そしてもう一つ、また別の印象的なシーンについてピックアップしたいなと思います。
オープニングと物語後半に出てくる
「少年が水の中を沈んでいくのを見ているという夢」のシーン。
「苦しくありません。寒くもありません。ただ、たった1人でいる事が、無性に悲しくて寂しくて、どうにもやりきれなくて叫びそうになる」というセリフが出てきます。
このシーンは物語上の事件の真相や個人の想いにつながっているだけのイメージとも取れますが、もっと何か別のメタファーなのではないかとも感じさせます。

演出家として、戯曲とにらめっこして作品のイメージを膨らませていたある日、
「あれ、これ羊水なんじゃない?」と、ふと。

羊水とは妊婦さんのお腹で赤ちゃんが包まれている水の事。
少年は沈んでいるのではなく、生まれ落ちようとしているんじゃないか。
母のお腹だから、“苦しくも寒くもない“し、
これからの“たった1人“を嘆いて、生まれたら“泣き叫ぶ“のではないか。

そう考えた瞬間、この作品の持っている、本当にどこまでも壮大なイメージがブワっと見えてきました。

思春期の彼ら。
それは大人の僕らには本当に痛くてキラキラしてて。
そんな彼らが大人へ成長する物語は、
まさに“新たに生まれ直す事“と同義とも言えるではないか。

もうお分かりかと思いますが、そう、トンネルもそのまま"産道"です。
ここから出る事が、この先待っている運命が、
“新たに生まれ直す事“を強制的に引き寄せてしまう事を感じ、それを怖がるトキ。


母親と父親と大人になる事と

さて、ここでこのイメージの拡げ方は終わりではありません。
水中に沈んでいる少年=母のお腹の中の赤ちゃん
というイメージとこの銀河鉄道という世界はどうつながるのでしょう。

何かどこまでも大きなものに包まれているイメージが母なのかな?
そういえば、劇中でもトキとカンちゃんが意識を宇宙に拡大したり体内の細胞や電子まで縮小したり、それは全部繋がっているよというような話をします。
だとしたら、どこまでも大きいものである宇宙も母のイメージなのではないか。

とっても静かで、暗くて、時に煌めき光るものがあって、そしてどこまでも大きく自分を包んでくれているような存在。
宇宙・湖・トンネル=母。

では父のイメージは、この作品の中にはないのだろうか?

宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」には母も父も印象的なキャラクターとして出てきます。
それがそのまま宮沢賢治の家族観の一つを感じさせるような。

いや、待てよ。この作品にもトキの父というキャラクターが出てくる。
彼はどう描かれているだろうか。
トキと車掌が闇について話をしていると、急に彼は現れる。

そうか。
つまり車掌=父であり、それはつまり銀河鉄道=父なんだ。
鉄道という機械の硬質なイメージ。
そして、線路が自分の行先を示してくれる(レールを敷いてしまうとも言える)。

●宇宙・湖・トンネル=母
●銀河鉄道=父

これがこの作品に流れている大きなメタファーなのかもしれない。


思春期のあの頃、
みんながそうではないかもしれないけれど、
少なくともボクは父親、母親との関係に苦しんだ。

ここまで自分というモノ、その思考や価値観を作ってきたのは間違いなく両親で。
でも社会を知って、恋をして、悔しい思いもたくさんして、
誰もが大人にならなきゃと願うようになる。

その時に自分を包む抽象存在としての"親"という物からどうやって離れるのか。
どう付き合うのか。
どうやって自立するのか。

トキ・カンちゃん・エリの3役の役作りの際、3人には各キャラの親の事も考えてみてもらいました。
この3キャラはこの物語を経て、根本的に何から解脱しなければいけないのか。


大好きな大先輩


さてさて、この記事でもう一つだけ。

この作品の中で父という存在は、トキの父というキャラクターとして出てきますが、母は宇宙とかそんなイメージだけなのでしょうか?

かおる先生も母の存在として描いてますが、メイン3人の母親は出てきません。
実はボクが演出として一つ強く希望をした事で、"山下さん"というキャラクターにもそこを担っていただく事にしました。

山下さんは特にメイン3キャラの親族という事ではなく、ただのエリと仲良しのおばちゃん。
でも作中で唯一現実世界に出てくるキャラです。
母や母性みたいなものをこの山下さんで強く表現したいなと思いました。

そして、その父や母のイメージ、
宇宙や銀河鉄道みたいなとても大きくて、決していち人間が捉えきれない大いなる存在。
それらを剣持さんという大先輩に、「その役者:剣持直明の身一つで表現してほしい」と無茶ぶりをしましたw

結果としては、素晴らしすぎました。
車掌としてお客様をちゃんとこの世界にご案内して、その持ち前の人間力で山下さんやトキの父という人間の歴史を、あんなにも短いシーンで見せる。
それこそこの作品のテーマじゃないけど、人間の身体の中には役者の身体の中には銀河があるなぁと感じさせていただきました。

大先輩に打ち上げで「これからは芝居仲間」って言ってもらえたので、またご一緒したいなぁ。
そのためにこれからも勉強しよう。


さて前編はこの辺で。
後編は今夜出す予定です。
後編は「男と女という役」について。


いただいたサポートはさらなる表現を目指す活動費に使わせて頂きます。よろしくお願いします!