123天文台通りの下町翁 雑記帳~映画「アンデス、ふたりぼっち(ペルー、オスカル・カタコラ監督、2017年作品)~
アンデス山脈ペルー、ボリビアと境を接する5,000メートル級の山岳高地で暮らす二人の老いた夫婦の日常を撮り続けた劇映画。全編が千年言語と呼ばれるスペイン植民化前から生きる先住民の言葉アイマラ語でやりとりされる。主役の二人、夫役の老人が2021年11月に今回の作品につづく2作目の長編映画撮影中に34歳で夭逝してしまったオスカル・カタコラ監督の母方の祖父。妻役の老婆は友人の紹介で演じている。二人とも半年ほど演技指導を受けて撮影に入ったという。とても演技とは思えない自然な掛け合いと、厳しい高地での日常が淡々としたカメラワークの中で描かれる。カタコラ監督は静謐だが劇的な場面がはめこまれた作品の中に、先住民の村々、弱者を放置する国家への批判を込めている。それが暗喩の形で散りばめられているゆえに一層染み入る形で感じられる。
この映画の中で、"火"が意味するものが1つの重要なものと個人的には感じた。全編がアイマラ語の中に fosforo(フォスフォロ=マッチの意味)というスペイン語が1つ混じり、そこから巻き起こる大きな物語の仕掛けが心に渦を巻き起こした。
あまりにも才能ある監督の急死が残念でならない。せめて彼が残したドキュメンタリーなどの作品に触れる機会を得ること、Cine regional(シネ・レヒオナル、都市以外の地域映画)と呼ばれるペルー映画の動向に注目していきたい。
ラテンアメリカの文化、芸術、料理、社会から学びとれるものは様々にあるはずだ。
現在「アンデス、ふたりぼっち」は東京・新宿 k'sシネマで上映中。800円のプログラム購入は必須だ❗
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