病院窓口の板橋さん

激務に耐えられず、発病してから12年経つ。

忙しかった。要求レベルが高かった。周りにお手本にしたい人がいなかった。

何度も再発を繰り返し、5年経った頃、定年退職した両親が上京してきて、同居することになった。

病院を変えた。

そこの窓口に、板橋さんがいた。

仕事をしていて何をやっても、文句しか言われなかった。書類を作っても修正ばかり。心が折れた。

板橋さんは何も言わずに会計の書類を受け取る。

淡々と仕事をする姿に酷く心を打たれた。

化粧っ気が無く、黒髪のおかっぱにメガネをかけた板橋さんは美しかった。

それまで、職場で化粧や服装や持ち物を査定され、注意され、課金して武装していた事が、急にバカバカしく思えた。

淡々と受け入れられて、スムーズに流れていく事務処理が心地よかった。

板橋さんは何も言わない。特別な事もしない。マニュアルに沿って事務作業をこなしていく。それが尊く素晴らしいものに思えて、今も病院て会えるとホッとする。

東京に出てきて、凄い人はたくさんいたけど、こんな風になりたいと思えたのは、板橋さんだった。

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