角膜移植体験記

私はこれまでに、左右合わせて7回の角膜移植を受けています。

初めての移植は中1の時。

その頃の視力は0.03とか0.02とか。
正確な値は覚えていませんが、何を見るにも、これ以上ないというくらい眼球に近づけて、それでもなんとなくしか見えていない状態でした。

移植手術は、怖さよりも、「見えるようになるんだ」と、楽しみな気持ちが大きかったです。

角膜移植は、ドナーの方がいつ現れるか分からないので、本来であれば待機リストに登録して、呼ばれたらすぐに入院、という流れになることが多いと思います。

しかし、私のかかっている病院では、海外ドナーの角膜を輸入して手術するという選択肢があったので、それをお願いしました。

2~3週間入院するので、夏休みに受けました。

もうだいぶ前のことなので、細かい部分は覚えていないことも多いのですが、確か手術室には車椅子で向かったと思います。

手術台に上がり、心電図と血圧計をつけられて、点滴を刺されました。
頭には不織布っぽい帽子をかぶります。

それから目の麻酔。
麻酔は、下まぶた、いわゆる涙袋のところに注射をします。
ちょっとは痛いしとにかく緊張するのですが、針を刺されているというよりは涙袋を強く押されているような感じで、思い返すとそんなに痛くはありません。

「球後麻酔」という麻酔の方法のようです。

麻酔の薬が入ってくると、目が開けていられなくなって瞼が勝手に閉じます。

注射のあと、閉じた瞼の上に重りのような物をのせて、バンドのような物で締め付けて、目を圧迫します。
それで麻酔が全体に効くようになります。

最初の手術の時は、ほっぺや上唇の方まで麻酔が効いてきました。

しばらく圧迫した後、消毒のために目の周りをゴシゴシ拭かれます。
私は眉毛が立派なので、眉毛もゴシゴシゴシゴシ拭かれました。

そして手術する方の目のところだけ開いている布(不織布)を顔にかけられます。

瞼は自分で開けられませんが、器具をつけて強制的に開きます。

麻酔がよく効いていると、目を開いてもあまり見えません。暗いです。
手術用のライトを浴びせられているのでほんとはとても明るいはずですが、「多分ライトが当たってる…かな?」程度の見え方です。

ちなみに私は何回も手術を受けるうちに麻酔が効きにくくなり、手術中にどんどん見えるようになったり、初めからよく見えていたこともあります。
でも、それでも痛い思いはしなかったので、見えなくならなくても大丈夫なようです。
途中でもし痛くなったら、麻酔を追加してもらえます。

そこからはもう、まな板の上の鯉です。
私にできるのは、勝手に動かないことだけ。

くしゃみが出そうになったりしたら、先生に言ってからします。
結局出なかったですが、出そうになって待ってもらったことはあります。

手術中のコツとして1つ挙げられるのは、呼吸です。

先生たちは、私の目のところで細かい作業をしていますから、
私の顔に手を乗せたり、時にそれが鼻を塞いだりすることがあります。
なので、そういうときは口呼吸をするようにしています。
布はかかっていますが、口が塞がれることはないです。
口呼吸と鼻呼吸を巧みに切り替えると、苦しい思いをしなくて済みます。

手術中は先生たちの会話が聞こえてきます。
大事な局面では、いつも穏やかな先生も少しピリピリしていて、手術って本当に大変なんだなと思います。

終盤になると先生の口調にも余裕が出てきて、私も「もう少しだな」などと少しホッとしてきます。

初めから終わりまで大体1~2時間。

新しい角膜を縫い付け終わると、ガーゼの間にプレートのようなものが入った眼帯をつけられて、また車椅子に乗せられて、部屋に戻ります。

手術中トイレに行けないので、部屋に戻ると私は大抵すぐトイレに行きます。

手術中でもほんとに無理だったら尿瓶とかで取ってくれるのでしょうが、それはちょっと嫌なので我慢しました…。

手術の前は絶食なので、部屋に戻ると朝ごはんやら昼ごはんが取ってありますが、大抵そんなには食べられません。

少し食べたり食べなかったりして休んでいると麻酔が切れてくるので、痛み止めを飲みます。

初めての手術の後は、とにかくすごく痛かったのを覚えています。
あの時は痛み止めをちゃんと飲んだのか飲まなかったのか、よく覚えていませんが、
とにかく我慢しないで痛み止めは飲んだ方がいいです。
飲むとよく効きます。

私の場合、手術を何回か重ねるうちに、麻酔が切れてもあんまり痛くならなくなりました。
痛み止めを全く飲まなかったこともあります。
何故なのかはよく分かりません。目が鈍くなっているのかな。

眼帯は一晩つけておきます。
夜は目を潰さないように寝ます。

翌朝の診察で眼帯が取れました。

幼少期以来10年ぶりに透明な角膜で世界を見た瞬間のことは、今でもよく覚えています。

先生の白衣と、「これ見える?何本?」と出された指。

何本なのか、パッと見て数を把握する力が鈍っていて、端から何度も数えました。

色がくっきりしていて、全体の輪郭が少し光っていて。

忘れられない光景です。

そこからは毎日目薬をして、点滴をして、夏休みのうちに無事退院しました。

よく見えるようになって気づいたのは、

ごはんがつぶつぶしていること。

道路が意外と汚いこと。

それまでの私にとって、ごはんは雲とか大根おろしみたいに、白くてもこもこした塊で、
道路はただ灰色ののっぺりしたものだったのです。

慣れるまではごはんがちょっと気持ち悪く見えました(笑)

見えにくい世界の、もこもこしたごはんのファンタジーもそれはそれで面白いですが、私はやっぱりつぶつぶしたごはんの現実の中で、鮮やかな色を見て、暮らしていきたいです。
これからも、できる限り。

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