読書石けん(毎週ショートショートnote)

うちの石鹸は本をよく読む。
私は本を読まない。

今夜も防水カバーをつけた文庫を広げると、
石鹸は嬉しそうに読みはじめた。
それを眺めながら、ぼんやりと湯舟につかるのが私の日課だ。
「よく飽きずに読むねぇ、石鹸なのに」
からかい気味に話しかけると、石鹸は私をちらりと見た。
「君はぜんぜん本を読まないな、人間のくせに」
嫌味っぽく返された。
「人間だって全員が本好きじゃないよ。本を読まない人もいます」
「石鹸だって本を読むのもいれば、そうじゃないのもいるってことだけさ」
「たいていは読まないけどね」
「ま、たいていは、ね」
いつもの会話を済ませると、私は湯舟を出て石鹸で身体を洗う。
たいていの石鹸がそうであるように、うちの石鹸もいい香りがする。
お風呂から上がり、パジャマを着ても香りは消えない。
やがてベッドに潜り込むと、石鹸の香りは仄かに語りはじめる。
「第一章、雨の夜に･･･」
その読み聞かせに包まれて、眠りにつくのが私の日課だ。

だから私は本を読まない。

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たらはかに(田原にか)さんの「毎週ショートショートnote」に参加させていただきました。

『本作品はamazon　kindleで出版される410字の毎週ショートショート～一周年記念～　へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』