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企画参加【毎週ショートショートnote】

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お題ありのショートショート。 たらはかに(田原にか)さん企画 参加作品。
運営しているクリエイター

#小説

名探偵ボディビルディング(毎週ショートショートnote)

僕はミステリー文芸部の部長だ。 放課後、書きかけの探偵小説を推敲していると、後輩の照井さんが走り込んで来た。 「三須先輩、お薦めのミステリー読みました!」 彼女は真面目だが、ちょっと変わっている。 まぁ変わり者じゃなければ、こんな僕ひとりしか活動していないような部活に入って来ないだろう。 「どれを読んだ?」 「ええと、シャーロック・ホームズの…… 『ボディビル家の犬』です!」 僕の手からシャープペンが落ちた。 「照井さん……バスカヴィル家、な」 「あっ『バスカヴ

みんなで動かない(毎週ショートショートnote)

高田さんちのカメのムウさんは、じつは地球を守っている。   それを知っているのはムウさんと、侵略に来た異星人たちだけだ。 同居猫のココアも、生垣に鼻先を突っ込んでくる隣家のマックスも、もちろん高田さんの奥さんも知らない。   今日も洗濯物がたなびくウッドデッキで甲羅干しをしながら、ムウさんは侵略者を監視している。 異星人たちは高田さんちの庭木のふりをしているのだ。 ムウさんは年寄りなので耳が遠いが、彼らの声はなぜか頭の中で聞こえる。 それによると、彼らは遠い遠い星から地球侵略

ぴえん充電(毎週ショートショートnote)

ちょっと話があるの、と妻が言った。 僕は溜め息を吐き、ダイニングチェアに腰かける。 「明日も早いんだ。短く頼むよ」 「気づいた?もうすぐ満杯になりそうなの」 そう言って自分の耳に触れている。 涙型をしたイヤリングが銀色に光っていた。 「若い子はね、これを『ぴえん充電』って呼んでるんだって」 本題ではない話から始める。彼女の悪い癖だ。 「それは変だね」 僕は少し苛ついて答える。 イヤリングは小型の発電装置だ。怒りや悲しみで発電する。 家族内で発生する負の感情を有効利用しよう、と