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模型のリアル

自慢じゃないが、プラモを完成させたことが殆どない。自分のブログも「ミカンセーキ」(=未完成記)とタイトルをつけているぐらいの確信犯。

理由はいろいろあるよ。

のめり込んですぐ飽きる..とか、ディテールの考証に行き詰まって先送りしたり、未完のフォルムに見惚れたり… とか。でも、原因がそれだけではないことに気がつきました。

いつも自分の作ってるプラモデルは、今から70〜80年前の戦車や装甲車。
実物と同じようなリアルさを表現したい!と思っても、当然のことながら既に実物は無くイメージは当時の記録写真で探すことになります。でも、よく作る第二次大戦後半のドイツ軍車両は戦闘中の写真よりも、破壊された残骸を米軍が記録した写真のほうが多かったりもします。

ロレーヌ遺棄車両

そんなこともあって、自分が感じる「リアル」はモノクロ写真の中の壊れた車両だったりするから、派手な迷彩模様をエアブラシで見事に再現してレッドブラウンとメタリックグレイで車載工具を几帳面に塗り分けた模型を見ても、凄い本物みたい!と思うより、タミヤのカタログに載ってる完成写真を思い出してしまう。...みんな薄々感じてることだとは思うけど、プラモ作ってる途中のモノトーンな姿にむしろ「リアル」を感じる瞬間があったりするんじゃないかな。

塗装をすればリアルに見えるのか、ウェザリングでリアリティが出るのか、実は模型的には全くリアリティがない。

とはいえ、ちゃんと塗装まで済ませたプラモをときどきは作ります。
コンテストのフォーマットはたいてい色を塗らないと始まらないし、塗装をしないと表現できないリアルというのもある。

ロレーヌ_1130-5

<ロレーヌシュレッパー15cm自走砲の場合>
1944年6月6日に始まった連合軍のノルマンディ上陸作戦。迎え撃つドイツ軍の車両の写真の中に見つけたちょっと面白い迷彩。当時主流だったのはスプレーガンで描いた輪郭の曖昧な三色迷彩だけど、それに対してこの車両はフランス戦車を思い出させるようなくっきりとした輪郭の塗り分け。牛の模様みたいな迷彩パターンを模型で再現したものはまだ見たことがなかったので、これをカラーで再現したらどんな感じで見えるんだろうと思った。

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迷彩模様だけでは、色を塗っただけの原寸大の塗膜にしか見えないから、1/35のスケールを表現するための最低限のウェザリングは必要

…. 昨日の嵐の痕跡を微かに残す雨垂れの筋、雨上がりの田舎道を少し走ったときに跳ね上げた泥。

やりすぎは禁物。ウェザリングは控えめに。その代りに、雨に降られる前にこの車両に流れた時間を描きこんだ。
…パリの工場で1942年に改修した時はドイツ軍のダークグレーで塗装。ダークイエローはその後に前線でオーバーペイント。連合軍の空爆に備えて上部に「夏模様」迷彩を施したのは1944年の5月。ダークイエローの足回りはペンキが剥がれてグレーの下地が見えて、機械油など汚れが染み付いた色。それに対して新しい迷彩塗装の部分は錆も色褪せもほとんどない新車の状態。そんな時間の振りを表現してみました。

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天気図を調べると作戦の2日前の6月4日に雨が降った記録がありました。ウェザリングの設定は6月5日、半島に連合軍が上陸する前日の「物語」

ロレーヌ_1130-4

その2ヶ月後に、モデルとなった車両が(包囲殲滅されて残骸となって)発見された場所(ファーレーズポケット)の地図をアクリルに挟み込んだものをベースに使ってみました。草原の写真の写真を敷いても面白いし、モデルにした車両の写真を下敷きにしても面白いと思う。可能性はいろいろある。
模型をリアルに思わせるのは粘土細工の地面ではなく、物語の土台だから。

(たぶん、つづく)

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