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脱毛広告観察記4 尻の毛まで抜かれる世界

脱毛の新領域 VIO脱毛

「尻(ケツ)の毛まで抜かれる」という慣用句がある。「何も残らなくなるまでだまし取られる」という意味だが、その意味では通じなくなりつつあるのではないか、と思う。
2年ぐらい前のことだったか、電車の車内広告で「VIO脱毛」という言葉を見た時に、それどういう意味なのか分からなかったのでスマホで検索したら、隠毛の脱毛だということがわかった。陰毛をV(体の正面から見た部分の陰毛)I(脚の付け根、外陰部周辺)O(肛門周辺)を意味すると知り、陰毛が生える部位によりきっちりと分節されて、その形状がアルファベットで記号化されて表されていること、それが車内広告の文言として通用するほど膾炙していることに驚いた記憶がある。それ以上に、隠毛を脱毛することがそれほど当たり前のことになっていることにも驚いた。

隠毛の脱毛を指す言葉に「パイパン 」がある。「パイパン」はポルノなどで性的・卑猥な意味合いを持つ主に使われる俗語なので、公に口に出す言葉ではない、とも思う。「VIO脱毛」には「パイパン 」に含まれている卑猥なニュアンスはないから、多くの人にとっては、電車の中で目にしても、動揺することも、不快な気分になることもないのだろう。しかし、「隠毛を脱毛しましょう」と車内広告で大っぴらに宣伝されるようになったのは、いつ頃のことなのだろう。VIO脱毛が普及することで、「尻の毛まで抜かれる」は、「VIO脱毛の「O」のこと」と定義し直され、理解されるようになっているのかもしれない(知らんけど)。

ところで、「VIO脱毛」は「全身脱毛」とは別のメニューとして表記されることが多く、身体領域区分の中でも、特別なエリアとして扱われている。
「VIO」エリアは「隠部」であるが故に、顔や脇、腕、脚のように、日常的に他人の視線に晒される部位ではない。水着を着る場合とか、自分だけ、あるいは性的な関係を持つ人しか見ることがない。

「VIO脱毛」と検索をすると、VIO脱毛を施術する業者のサイトから、そのメリットとして、性器の周辺を清潔に保てる(VIO脱毛はハイジニーナ(衛生)脱毛とも呼ばれる)ことが謳われている。また、40代以降を対象としたVIO脱毛は、「介護脱毛」として、将来的に介護を受けることを想定し、オムツ交換の際に、隠部を清拭をする介護人の負担を軽減するための処置である、と明記されていることも多い。「VIO脱毛」は、隠部を衛生を保つこと、身だしなみ、将来的に他者から介護を受けることを想定した自己管理として、推奨されている。
車内広告のような公共空間に掲出される広告では、「VIO脱毛」は言葉として表記されるにとどまり、脱毛の部位を視覚的に表現したものが使われることはない。しかし、インスタグラムでは、フィード投稿ではなく、ストーリー機能(通常のフィード投稿とは別枠で短時間の動画や写真を気軽にシェアでき、24時間で自動消滅する)で、直裁にVIOの部位を説明するようなビジュアルを用いた広告が表示されることがある。
友人が投稿したストーリーの画面を流し見していると、個人的な投稿の間に挟まるようにして、女性の股間のイラスト、臀部の写真が登場して驚いたことがある。

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予期しないタイミングで、股間のイラストが視界に入ると、やはりギョッとしてしまう。

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「そのお尻、本当に完璧ですか?イマドキの美尻は脱毛が超重要!Is Your EXIT Clean?」という奇妙な文言とともに、赤いネイルをほどこした手で臀部を掴み持ち上げた写真が現れた時は驚いた。そこまでしてVIO脱毛を推してくる理由とその圧に受け入れられないものを感じた。「尻(ケツ)の毛まで抜かれる」ことの強迫観念が迫ってくるという感じだろうか。

男性のVIO脱毛 景観として整えられる身体 

男性を対象とする脱毛広告というと、ヒゲ脱毛を勧めるものが多いが、男性でもVIO脱毛を取り入れる人も多く、VIO脱毛をする男性を「ハイジ男子」と呼称するらしい。(この言葉を聞いて、脳内に「アルプスの少女ハイジ」のOPが流れる私は昭和脳である。)

男性の体毛の脱毛を指す言葉として、Manscapingという造語がある。「Queer Eye for the Straight Guy(クイア・アイ♂♀ ゲイ5のダサ男改造計画)」(2003年開始のアメリカのリアリティテレビシリーズ)から生まれた言葉で、男性ManとLandscaping(造園)を掛け合わせており、刈り込み手入れされる庭園のように、男性の体毛を手入れして、美しい景観を作り出そうという発想がその根底にある。

興味深いのは、女性のVゾーンのトリミングのデザインよりも、男性のVゾーンのトリミングのデザインの方がバリエーションが多いということである。これは、男性の場合、髭を剃る習慣や、その形状の延長上に、Vゾーンのトリミングが位置づけられていて、外性器の関係の中でそのデザインが考えられているということに依るだろう。以下のサイトで紹介されていたデザインの中には、著名人の髭などを参照したものもある。

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個人的には、WiFiのHOTSPOTのマークを模したものが興味深い。男性の場合外性器が正面から見えるから、外性器の演出方法としてのトリミングデザインとして考案されているのだろう。デザインの選択や、刈り込んだ隠毛をパートナーに見せるなどの動機づけなど、ただ「衛生的に保つ」ことにとどまらない「VIO脱毛」のあり方には興味深いものがある。


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