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脱毛広告観察記 5 キッズ脱毛

低年齢化する脱毛産業

「脱毛の広告に関心を持っている」と方々で話をするようになって、「こんな広告がありましたよ。」と教えて頂いたり、脱毛の経験談など伺うことも増えてきた。最近知り合いになった方から2月の半ばに「埼京線でこんな広告を見かけました。」と写真を送って頂いたのが、エステティックTBCの脱毛サロン、エピレ(épiler ) のキッズ脱毛の広告である。「キッズ用、ほんとにあったんですね…。広告見たの初めてだったので軽くショック…」とのコメント。
「7歳からの脱毛コース」、「19部位から選べる2ヶ所脱毛プラン キッズ特別価格490円」とある。ワンコインで始められるとあれば試してみたい、と思う子どもたちは多いのかもしれない。

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「脱毛広告観察記 1」でも書いたことなのだが、脱毛の広告に興味を持ち、観察をしようというきっかけになったのは、小学生である自分の娘が、脚の産毛を気にして、「脱毛」という言葉こそ使わないまでも、毛を抜くとか剃る、ということを口にしだしたからである。脱毛のターゲットになる年齢層が、小学低学年まで低年齢化していることや、大手のエステサロンが、「子どもでも安全な施術・低価格」を打ち出していること、脱毛サロンのほかに、体毛の薄くする「抑毛ローション」があることなどは検索などを通して知っていたが、実際に車内広告で掲出されるほどの需要があり、告知がなされていることを知ったのはこの広告が初めてである。
私自身は、この広告を間近に見たことはまだないのだが、通過する車両の外側から掲出されているのを目にしたことはある。大人向けの脱毛広告に比べると掲出数は少ないが、今後キッズ脱毛の広告数も増えていくのだろうか。
「エピレのキッズ脱毛」の広告は、全体的にパステルトーンの淡い配色で、制服のような白い襟つきのシャツ(制服を連想させる)を着た、小学校高学年、中学生ぐらいの少女が髪を風になびかせ、背景には川辺のような草原の景色が広がっている。季節は春に向かう季節といったところだろうか。少女の爽やかさ、清潔感、晴れ晴れとした表情が、「気になる無駄毛がなくなった解放感」、「コンプレックスから解放されて心が軽くなり、前向きになれる」というような心理状態を表しているかのようである。
この広告のことを知った後に、アサヒスーパードライの春限定パッケージ商品(ピンク色の缶)の広告を渋谷駅の通路で見かけた。コロナウィルス の影響で行き交う人の数が減り、マスクをつけた人たちが俯き加減にが早に通り過ぎていく背後に、春の風に髪をなびかせて、ビールで乾杯する女性たち(乃木坂46のメンバー)の姿が並び、「ビールがうまい。この瞬間がたまらない。」と手書きの文字で記されている。「髪を風になびかせた女性」「手書きのキャッチコピー」「ふわっとした色調」が、スーパードライと、エピレキッズ脱毛の広告の共通点であり、見る者を軽やかな春めいた気分とともに広告の世界に誘い込むような演出方法になっている。様々な広告を見ていても、キャッチコピーに手書きの文字を用いるのは、圧倒的に女性をモデルに採用したものが多く、その文字から感じられる「近しさ」が見るものに親近感を抱かせるのではないかと思われる。
広告のヴィジュアル、メッセージは、個別の広告によって形作られ、伝達されるものだけではなく、他業種・他製品の広告でも、季節や場所などの共通性を帯びたものが同時期に掲出されることで醸成される場の雰囲気も含まれるのではないだろうか。「エピレのキッズ脱毛」でツルスベ肌、サラサラヘアーの女性になるべく準備を進め、成長して大人になったら女子会で花見、というストーリーが出来上がっているかに見える、そんな広告の世界の中に私たちは身を置いている。そして、私はそんな世界に正直大変うんざりしている。

ところで、キッズ脱毛を勧める宣伝のような記事や、業者の関係するブログなどを見ると、早期からの脱毛は、子どもが体毛が濃いことを原因に学校でからかわれたり、虐められたり、消極的な性格になったりしないようにするための適切な対策であると書いてあったりもする。私個人としては、「虐められないようにするための方策」としての脱毛、という考え方が受け入れ難く、容姿や体毛のことを指摘して虐める方が悪いと考えるのだが、当事者である子どもたち、思春期にさしかかり身体が成長していく時期の子どもたちにとっては体毛の悩みは切実な問題なのであろうし、脱毛産業の中でも、キッズ脱毛の利用者は2010年代に急増しているという。また、その傾向は日本に限られたものではなく、アメリカでも10代になる前から脱毛の施術を受ける子どもたちが急増しているという。SNSの普及とともに成長してきた世代の子どもたちは、写真を撮る・写る頻度が格段に多いから、他人から自分の容姿がどう見られるかということの基準においては、体型や顔の造作とともに、体毛の状態が気になるのだろう。

ボディヘア・ポジティブ あっこゴリラ 「エビバディBO」

このような体毛を気にする子どもたち、10代の女性に対して「体毛ポジティブ」ともいうべきメッセージを発信しているポップスターたちもいる。代表的なところでは、歌手のマイリー・サイラス(Miley Cyrus, 1992-)が、2015年にインスタグラムに、脇毛をピンクに染めた写真を投稿して話題になった。実際のところ、インスタグラムには、#armpithair とか#coloredarmpits のようなハッシュタグをつけて投稿された写真も多く、過度に体毛のことを気にかけて脱毛するよりも、伸びている脇毛を誇らしげに見せることで、脱毛を推奨する風潮に逆らうようなムーブメントも起きている。

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このような、ボディヘア・ポジティブのムーブメントに位置づけられるのが、あっこゴリラ(1988-)の「エビバディBO」(2018)であろう。

あっこゴリラはこう歌う。

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自分の娘が近い将来、「脱毛をしたい」と言い出したら、どう答えようかと今から思案しているが、「あなたが本当に、やりたきゃやれば良いのかもしれないけど、なぜやりたいのかよく考えて、体毛を伸ばして、色をつけたりして楽しむという方法もあるかもしれないし、そういう人も実際いるよ。」と伝えるのも一つの手なのかもしれないとも思う。







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