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脱毛広告観察記 2 「私の脇毛が誰かの頭髪になる」世界

世の中には定額制で脱毛するサービスと、定額制で増毛するサービスが存在するそうだ。これらのサービスを一つの組織の中で組み合わせれば、脱毛された毛が誰かの頭に植毛される、体毛の循環システムが可能になるのでは、と夢想してみる。

「私の脇毛が誰かの頭髪になる」世界が実際に待ち望まれているのでは、と思ったのは、JR池袋駅のプラットフォームで電車を待っていた時のことだ。正面にガンを飛ばす顔があるなと思ったら、モデルのローラがキャラクターを務めるエステサロンTBCの男性向け脱毛広告だった。

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黒い背景に「MEN'S TBC」の黄色のゴシックっぽい斜体のロゴ、ローラは黒のスーツとネクタイで、「男の肌は強いって思ってない? 脱毛は、スキンケアのひとつです。」と、「強い」という言葉と抱き合わせで、スキンケアの一環として脱毛を強く推している。これまでにも、MEN'S TBC が髭の脱毛を強く推進する広告を目にしてきたけれど、「強いって思ってない?」というセリフには「本当は自分が思うほど強くないのだから、ケア(自己管理)しないといけないよ」と警告している(黄色と黒は警告色の組み合わせである)。

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「MEN'S TBC」の広告の隣に目を向けると、AGA(男性型脱毛症)・薄毛治療のTOMクリニックの広告。こちらは文字のみのシンプルな広告だが、脱毛せよというメッセージと、毛を増やせというメッセージが同時に視界に入ってくる。髭や毛深さに悩み、同時に薄毛の頭髪にも悩まされる男性諸兄が看板広告を眺める心中を察するに、体毛とは「生えて欲しくないところは生えるが、生えて欲しいところには生えてこない」、全くもって意のままにならないものであるなと、思う。自分の髭やすね毛を、頭頂や生え際に移植して増毛できたら、と思っている男性は結構いるのではないだろうか、とも想像する。

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「MEN'S TBC」でマニッシュな姿で登場するローラは、車内広告の中にもいた。女性向けの「エステティックTBC」の脱毛広告は、黒のタンクトップで、髪を持ち上げるようなポーズで脇の下と腕を見せている。「MEN'S TBC」の広告とメイクの色味はほとんど変わらないので、女性向けと衣装とヘアスタイルだけ変えて撮影されたようにも見える。臙脂色の背景に白抜きで明朝っぽい書体で「私の道は、私がひらく。終わりのある脱毛」というコピー。髪の毛を持ち上げて括るような仕草とキリリとした表情は、何かを始める時の気合いを感じさせる。CMの動画がジムでのワークアウトのシーンを使っているので、脱毛はダイエットやシェイプアップと同様に、長い修行の旅のような行程であることが示唆されている。

「MEN'S TBC」と「エステティックTBC」の広告を比較してみると、ローラの表情はほとんど変わらず、顔の角度が異なる程度だ。男性向け、女性向けと、想定される広告の受容者のジェンダーによって、演出を変える、演じ分けるということがあまりないのが、ローラの魅力・特徴なのかもしれない。目鼻立ちのパーツがそれぞれ大きくて直線的というかパキッとした顔立ちなので、マニッシュな様相でも違和感なく受け入れられやく、何よりもその瞳の大きさ、丸さそれ自体のアイキャッチ力が強いのだと思う。マウスウォッシュのNONIOのCMで、ローラの口の部分「O」という文字で覆い、瞳を際立たせていたことも記憶に新しい。大量に制作される広告と、モデル、タレントの身体的な特徴、顔の造形、肌の色については仔細に見てゆく必要がありそうだ。


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