太正ヒソヒソ裏話3

 2020年12月19日に美少女文庫から発売の『吸血鬼妹の殲滅刃』の裏話その3です。

 今回は美少女文庫では欠かせない、女性のアレの名称についてです。

 学術的な観点からの話ですが、その話題はちょっと……という方は回避推奨です。

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 ……よろしいですか?

 では続きです。

 作中で女性器のことを、ヒロインの閑音は「オソソ」と呼び、主人公の弥士郎は「オマンコ」と呼んでいます。

 この差は二人の育った環境の違いによるものです。

 言語(いわゆる方言)の分布は「多重周圏構造」になっているという説があります。
 これは、言語が京都で発生し、その京都をを中心に周圏分布している(多重の円を描いて広がっている)、という意味です。
 民俗学者の柳田國男が「カタツムリ」の方言分布を分析することによって1927年に明らかにしました。

 例えば「ボボ」はもともと赤ん坊を意味する言葉でしたが、赤ん坊が出てくる場所ということで女性器を表す言葉としても使われるようになりました。
 京都から遠い新潟県や東北では現在でも赤ん坊の意味で使われますが、より京都に近い地域では女性器の意味で使われています。

 また「ホト」という表現は文献の上では『古事記』『日本書紀』に残るのみで京都周辺では使われなくなり、鳥取や岡山、鹿児島にだけ残っているそうです。

 言語は京都で「流行語」として生み出され、それが定着すると周辺へ広がっていく。大勢の人が使うようになると、京都ではまた新たな「流行語」が考え出される……というのが言語の多重周圏構造の考え方です。
 つまり、京都から遠い地域で使われている言語ほど、古い時代に京都で生み出された言語である可能性が高いわけです。

 さて、まず弥士郎が使っている「オマンコ」です。

 由来は、かつて高級菓子として京都人に楽しまれていた饅頭です。京都人はこれをマンジュー、マン、オマンと呼んでいました。
 これを、遅くとも江戸時代には、宮中の女官が女児の陰部を表す比喩表現として用いたそうです。
 それが次第に成人女性の陰部も意味するようになります。
 また、言葉自体も変化し、「マン」に親愛を表す接頭辞「オ」と指小辞「コ」をつけて「オマンコ」となりました。

 一方、閑音が使っている「オソソ」について。

「ソソ」という表現は安土・桃山時代にすでに使われているようです。
 ポルトガル人宣教師が日本人信者とともに作り上げた、1603〜1604年刊行の『日葡辞書』に記述が見られます。

 幕末に、「オ」をつけて「オソソ」が婦人語として京都で用いられるようになります。
 これを、大阪の船場の大商人たちが、京都の文化を吸収する過程で取り入れたそうです。
 また、上流階級の結びつきもあり、東京の華族の間でも使用されるようになったのではないかと思われます。
 ちなみに大正中期くらいまでは女性が大っぴらに使っていたようです。

 というわけで、多重周圏構造の観点から二つの表現を比べますと、

・「オマンコ」の方がより古い表現である→信濃の田舎に住んでいた弥士郎が使うのが自然
・「オソソ」が京都で婦人語として定着したのは幕末で、婦人語として上流階級の間で使われていた→華族文化の中で育った閑音が使うのが自然

 ということになります。

 こうした背景を踏まえてクライマックスを読んでいただくと、閑音が「より古い、伝統的な表現」に懐かしさと親近感を覚える、という、閑音の高貴さを表す描写になっていることがわかるのではないかと思います。

※こちらの書籍を参考とさせていただきました。

松本修『全国マン・チン分布考』集英社、2018年

https://www.amazon.co.jp/dp/B07N6C3STG/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_Huw3FbH09T79Q

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『吸血鬼妹の殲滅刃』

https://www.amazon.co.jp/dp/4829621249/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_Ce.2FbYBZPCFA

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