愛 i アイ (あいあいあい)

所要時間:約10分(多分)
演者人数:2名(男1:女1)
台本使用規定:非商用利用時は連絡不要(連絡してくれたら飛んで見に行きます)

登場人物:
○田中 悠太(たなか ゆうた)
高校三年生。深夜アニメが好き。好きな食べ物はチーズ牛丼。

‪‪○真鍋 ひかり‬(まなべ ひかり)
金髪のギャル。田中と同じクラス。可愛いものが好き。

○相澤 琴乃(あいざわ ことの)
田中が片想いをしていた相手。学年一の美少女。隣のクラスに彼氏がいる。(名前のみ登場、セリフ無し)

備考:
・性行為を連想させる言葉やシーンがあります。苦手な方は気を付けてください。


以下本編↓
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田中:田中 悠太
真鍋:真鍋 ひかり

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田中:たった今この瞬間、僕は初めての失恋をした。

田中:僕の好きな人―相澤さんが隣のクラスの男子とキスをしていた。それを偶然にも目撃してしまった僕は、何も言わずに走って逃げた。

田中:分かってはいたんだ。相手は学校イチの美人で、三軍平凡の僕なんかじゃ釣り合わないって。

田中:だけど…一回きりのチャンスくらい、あったって良かったじゃないか。何もこんな仕打ちをしなくたって。なぁ、神様。

田中:……そんな事言って、告白する度胸も無かったくせに。僕は自分が悪いと分かっていても他人のせいにする、情けないヤツだ。そんなんだから、相澤さんの視界にすら入らないんだ。

田中:…もう帰ろう。心の鉛も、ほんの少しだけ軽くなってきた。

田中:早く帰る。そして、ご飯を食べて、風呂に入って、好きなアニメを見て、もう忘れるんだ―

真鍋:「…見ぃちゃった。見ぃちゃった。田中くんが失恋したとこ、見ぃちゃった。」

田中:「っ!?‪‪真鍋さん…!?どうしてこんな所に…」

真鍋:「えぇ?だってアタシ、ココの生徒だし。」

田中:「そういう事じゃない。もう5時だ。下校の時間はとっくの前に過ぎたはずだろ。」

真鍋:「そーいう田中くんだって、もう5時なのに学校にいるじゃん。なんで?」

田中:「…」

田中:「…な、なんで僕なんかに話しかけたんだよ。同じクラスってだけで、別に仲良くも何にもないだろ、僕たち。」

真鍋:「ひっどーい。田中くん、そういう事言うんだぁ。アタシ、泣いちゃいそー。えーんえーん。」

田中:「…用が無いならもういい?君を構ってあげられるような気持ちじゃないんだ、僕。それじゃあ、」

真鍋:「田中くんにとっては何にもない関係かもしれないけど、アタシにとっては大切なんだもん。」

田中:「…は?」

真鍋:「だってアタシ、田中くんのコト好きだし。」

田中:「……もう、からかうのはやめてくれないか…」

真鍋:「からかってない。本気だよ。抱き締めたいし、手も繋ぎたい。キスもしたいし、セックスだってしたい。そういう意味の、好き。」

田中:「ちょっ、!そ、そういうの…は、え、は……?」

真鍋:「あれ?もしかして伝わってない?もっかい説明しよっか?」

田中:「……それ、は、いい…」

田中:「そ、そうだ!そうじゃない!なんで、僕なんか…それに、なんでこんなタイミングで…」

真鍋:「あはっ、”僕なんか”だって。よく分かってるじゃん。相澤さんの足元に及びもしない、田中くんだもんね。タイミング…は、まぁ良いじゃん?なんだって。」

田中:「…」

田中:「…無理だ」

真鍋:「うん」

田中:「……無理だよ。失恋したからって、君と付き合えなんて。」

真鍋:「うん」

田中:「第一、僕と君はたった今初めてマトモに会話をしたくらいの仲で、そもそも僕は君みたいなタイプは苦手だし、何よりもまだ僕は相澤さんが……………………って、え?」

真鍋:「ん?なーに?」

田中:「いや、あのさ…振った側としてこんな事言うのはおかしいとは思うけど、やけにあっさりしてない?」

真鍋:「うん」

田中:「いや、だから…」

真鍋:「だって、”アタシ”は付き合えなくっていいもん。」

田中:「…は?」

真鍋:「………ねぇ、田中くん。アタシを相澤さんの代わりにしてよ。アタシとじゃなくていいの。アタシを相澤さんだと思って、付き合って。」

田中:「…何、言って……」

真鍋:「ダメ?」

田中:「っ駄目に決まってるだろ!そんなの!」

真鍋:「どうして?」

田中:「どうしてって…」

真鍋:「だって、相澤さんは田中くんになんて振り向いてくれないよ?絶対、絶対、好きになってくれない。これからも一生。田中くんの知らないトコロで他の男とキスをして、田中くんの知らないトコロで、他の男に抱かれるの。」

田中:「っ…」

真鍋:「それでも、田中くんはきっと相澤さんのコトを好きなまま生きていくの。ずっとずっと、引きずって生きていく。吐き出せない思いを背負い続けて、そうやって、そうやって………苦しいよね?ねぇ、苦しいね!田中くん!」

田中:「うる、さい…うるさいよ……そんなの、分かって……」

真鍋:「だからね、彼氏がいる女の子を密かに思い続ける可哀想な田中くんの全部を、アタシは受け止めてあげるの。」

田中:「…え……」

真鍋:「相澤さんがくれないモノを全部、田中くんにあげる。そうして、田中くんは自分の欲を埋めるの。田中くんが苦しくないように。辛くないように。田中くんが望むなら、見た目だって相澤さんに近付けるよ。声だって、話し方だって、全部。」

田中:「っ、は、はぁ…?何言ってるんだ…おかしい…おかしいよ…そんなの、君に何の得もないじゃないか!自分だと思わなくたっていいなんて、普通じゃない!ふざけるのもいい加減にしろよ!」

真鍋:「ふ、ふふ…ふふふ…………ふ、ふふふ!良いの、良いんだぁ。普通じゃなくて。だってアタシ、どんな田中くんも好きだもん。もちろん、相澤さんが好きな田中くんだって大好き。……ずぅっと、アタシも見てたの。田中くんが相澤さんを見てたみたいに。一年生の頃から。ずっと。…ぇへ、だから…たとえ田中くんが見てるモノがアタシじゃなくても、相澤さんだったとしても、それで良いの。」

真鍋:「……ねーぇ、田中くん。アタシのコト、抱いて?」

田中:「え、…」

真鍋:「田中くんのナカの相澤さんはきっと処女だから、優しく、優しく抱いてね。」

田中:「や、やっぱり駄目だ、そんなの」

真鍋:「………………琴乃、悠太くんのコト、大好き。」

田中:「っ、!?ぁ、あ”、は…………」

真鍋:「…悠太くんは悪くない。全部、ぜぇんぶ、アタシのせいにしちゃえばいいの。悠太くんの汚いトコロも、いっぱい受け止めてあげる。アタシを思う存分利用して?依存して?………それが、アタシは一番気持ち悦いんだから。」

田中:「っ、歪だよ……歪んでる…」

真鍋:「でも、歪んだアイの方が色んなトコロにハマって良いんじゃない?」

田中:「…は、はは、…それも、そうかも、しれないね」

田中:僕は自分の弱ささえ他人のせいにする、情けないヤツだ。そんなんだから、今こうして”相澤さん”を犯そうとするんだ。

田中:沈んだ夕陽が、彼女の顔を隠した。

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