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寒天デザイナー・岡本雅世さんの原点とこれから


生き方見本市SHIZUOKA・第3部【食を問い直す】をテーマにお話しいただく岡本雅世さん。デザイナーとしてのキャリアを歩み、行き着いた先はなんと「寒天」!デザイナーさんが「寒天」を仕事にする。一体、どんな面白いことが起こるのか?今までのこと、これからのこと、そして岡本さんにとって「問い直す」ってどんなことなのか?インタビューをさせていただきました。


グラフィックデザイナーが「寒天デザイナー」になったワケ

【プロフィール】
岡本雅世|アートディレクター、デザイナー、フォトグラファー
山菜やキノコ狩りが好きな両親に育てられたデザイナー。料理すること、美味しいものを食べること、食べてもらうことがいちばん身近(手っ取り早い)でシンプルな幸せ。カンテンに出会ったことがきっかけで、やりたいことがどんどん増えて収集がつかない状況を楽しんでいます。


― グラフィックデザイナーとしてキャリアを歩んできた岡本さん。なぜ、「食」のフィールドに関わっているのですか?

自称「寒天デザイナー」として、ひょんなキッカケからハマってしまった寒天料理を楽しく作っています。

寒天やところてんって、食べ方がワンパターンじゃないですか。食感もところてんありきの、ツルッとした食感だけで。「他にもないわけ?」って思ったんですよ。2018年9月に「kanten_lab」のInstagramをスタートして、この1年で100投稿。3日に1度くらいのペースですね。(笑)

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(普段知っている寒天、ところてんのイメージを覆す素敵な一皿)


― 静岡県は日本有数のテングサの産地ですから、ところてんとか、寒天って少しは身近な気もするのですが、それにしてもすごくニッチなデザイナーですよね。(笑)何がきっかけで今の活動をスタートしたんですか?

はじめたのは1年少し前。2018年8月の三嶋大祭りがきっかけです。お祭りで人手不足だったのか、地元食品会社さんの店舗で、「おかもっちゃん、何か売らない?!」と誘われたんです。そこで、お祭りのメインストリートに面するその店舗の軒先で、屋台を出すことになって。

お手伝いで屋台を出すには調理が伴うものはハードルが高くて、手一杯になることが目に見えていました。そこで行き着いたのが「ところてん」を売るというアイデア。ところてんなら、袋を切って器に入れるだけ。地元のところてん専門店である「伊豆河童」さんとも知り合いだったので、頼みやすかったことも後押しとなりました。


― もともと、ところてんはお好きだった?

普通に食べてはいましたが、「こんなもんだよね〜」って感じで。ダイエットとか、夏にツルッと喉越しが良いもの食べたいときとかに買う。それ以上の存在ではありませんでした。


― そんなところてんに、なんでハマっちゃったんでしょうか?

お祭りの時に、いかつい感じのお兄ちゃんが私たちの屋台で、ところてんを買ってくれて。食べた瞬間に「ウマっ」って言ってくれたことがすごく印象に残って。おまけに、友達連れておかわりまで食べにきてくれたんですよ。(笑)

それから、協力してくれた伊豆河童さんからも、その時にいろんな味のタレを用意してもらったり、ちょっと油入れると美味しいことを教えてもらったり。ところてんって地域によって違うけど、黒蜜や三杯酢で食べることが多いじゃないですか。けどその時は甘いのから辛いのまで10種類もタレがあったんですよ。

「本体がシンプルだから、どんな風にも食べられるんだなー」と。それがおもしろいなって思って。

…ただね、お祭りでは結局大量に売れ残っちゃって。(笑)
それを消費するのに、トムヤムクン風にして食べたり、ココナッツミルクで食べたり。色々実験してみたんですよ。子どもの時から何事にも「どうして?」とか、「こんな風にしたらどうかな?」って考えるのが好きで。色々調べちゃったりして。

そんなことをしているうちに、「なんでこんなに色々できて、美味しい寒天・ところてんなのに、みんな食べないんだろう?しかも、同じ食べ方ばっかりなんだろう?」って気持ちが芽生えてきて。もう、理科の実験感覚で、色々試しはじめちゃったんですよね。

そこから、夏祭りで協力してくれた伊豆河童さんにも「私、勝手に研究所作るんで!」って宣言して。そこから一応伊豆河童さん公認というかたちで「河童のおつかい」という名前で露天商営業許可まで取得しました。(笑)

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(河童のおつかいの様子。オリジナルTシャツまで!)


― 露天商営業許可まで取ってしまったとは!

元々、直接クライアントさんに触れられる仕事って面白いなという感覚があったんですよね。屋台って、その極みじゃないですか。直接人と話すことができて。

地元でフリーのグラフィックデザイナーとして働いていますが、はじめの数年は会社勤めだったので、クライアントさんとの間に営業とか、クッションがいっぱいあったという経験をしてきて。だからこそ、直接関われる面白さは感じるようになったのかもしれません。

だから、屋台はまたやりたいなって思ったんです。寒天のためにというより、屋台は屋台で面白かったから。面白いと思ったら、瞬発的にやっちゃうんですよね・・・。

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(屋台に目覚めてしまった岡本さん)


「食」に関わる原体験、そして愛が復活した瞬間とは

― 料理はもともと得意だったんですか?寒天料理のお写真見る限り、はじめて1年とは思えない完成度ですよね・・・!本当に素敵な料理ばかり。

ありがとうございます!そうですね、もともと料理はとても好きです。母がきちんと作る人だったから、その影響が大きいと思います。

子どもの頃は、家族で富士山や伊豆の野山に出かけて、きのこ狩りや山菜狩りなどをよくしましたし、今考えると季節感をすごく大切に食事をしていて。初物を食べるときは東の方向にハッと手を打って食べるとか、そんなこともしていました。食への感覚を得られた体験だったなと、振り返って思います。


― そうすると、実家を離れられてから自炊もバッチリしていた?

正直なところ、若い頃はそんなこともなくて。無理なダイエットしたり、お酒ばっかり飲んでたり。(笑)一番食べ物なんてどうでもいい!って時期を挟んで、食べ物がやっぱり大切だなって。


― 何かきっかけがあったのでしょうか?

食べ物への愛情が復活したきっかけはハッキリ覚えています。結婚と、デザインの資料にと買った土井善晴さんのおせちの本に出会ったことの2つです。

それまでは、仕事も本当に忙しくて毎日魚肉ソーセージかじってる、みたいな生活だったんですけど。(笑)初めて「誰かに作ろう」って思うようになったのが大きかったかもしれません。やっぱり、せっかくなら喜ばせたいなと思ったし、元々自分自身が食いしん坊だからっていうのもあって。美味しいのが好きなんです。

もう1つのきっかけである土井善晴さんの本は、写真が本当に美しくて。一目惚れして、思わず買ったんですよ。こんなに綺麗に料理の写真を撮れるなんて、と。

最初はデザイン目的で買った本だったのですが、そこから「あれ?おせちって自分でも作れるじゃん」となって。

そこから10年くらい、自分の実家、夫の家族、自分たちの新年会用のおせちを作るようになりました。年々エスカレートして、自分の首を絞めるようになってきてるんだけど・・・つらい・・・おかげで年末はどこにも出かけられません。(笑)


― そこで、「作れるじゃん!」となるのが岡本さんらしさですね。そしておせち作りに対して、楽しみつつもストイックという。(笑)

そうなの。やるとハマっちゃうので。例年、栗の渋皮煮は10月頭くらいに5kgくらい仕込んで、お正月まで冷凍庫パンパンにさせちゃうし。1年通して、特別な料理っておせちくらいしかないじゃないですか。飾りつけようの南天も、来年の分はもう確保してあります。


― おせち以外も、それをきっかけに料理にこだわりだしたんですか?

おせちをきっかけに「大勢で食べる楽しさ」を感じるようになって。年に2〜3回はテーマを決めて、自宅で居酒屋を開くようなイメージの企画もしています。スパイスから作るカレーの会とか、BBQとか。メニューボードも作って楽しんでいます。2kgの富士山サーモンを提供してもらったときは、自分で捌いたりして。

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(盛り上がる居酒屋企画!食を通じて楽しんでいる様子伝わりますね♬)

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(企画の際には、メニューボードまでバッチリ!)

それから、実は3つ目のきっかけが3年前くらいにあって。料理家の友人ができて、一緒に企画などを行う機会に恵まれたことですね。食の感覚がすごく合って。季節のものや、地のものをうまく取り入れる人なんですよ。この間は宮崎まで、彼女の1歳になる娘さんの誕生日会の飾り付け係として行ってきたばかりです。

こうした一連の体験や実践を通じて、ごはんを通じて誰かと繋がるっていいなと改めて思っていて。ものすごく楽しいしね。どんどん食いしん坊になっていきますね。



「寒天デザイナー」としてのこれからと、問い直したいこと


― そんな経験や思いを持つ岡本さんとしては、今後の「寒天デザイナー」としての取り組みどんな風にしていこうと思っていますか?

寒天デザイナーとしての活動は、まだ全然これからです。まだ自称しはじめたところなので、まずは名刺を作ろうと思っているくらいのところ。これから、仕事にしていこうと思っています。寒天の本を出したり、さっきお話しした宮崎の友人と一緒にごはん付きの寒天料理の写真展も行う予定です。

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(紹介しきれないくらい、本当に素敵な寒天料理ばかりなんです!)

「食べること」って、手っ取り早く幸せになれる方法の1つだと思うので、「こんな風に食べたらどうかな?」って楽しみながらできたらいいなぁって。その1つの選択肢として、家で寒天を使って「固めまくる人」が増えたらいいなと思っています。


― 最後に1つだけ。岡本さん自身にとって生き方や、食を「問い直す」ってどんなことでしょうか?

誰もが毎日「生きる」「食べる」を繰り返しています。その上でよりよい世界を作ろうとか、誰かのために活動しようとか、仕事頑張ろう!とか、次のことに向かっていけると思うんですね。だから、ルーティーンでこなしちゃう家事やお腹を満たすだけの食事じゃなくて、そこにちょっと自分だけの「楽しい!」を発見したら何が起こるか、みんなやってみない?って。問い直すっていうにはあまりにちっちゃなことなんですけどね。


さらに詳しいことは、ぜひ当日直接聞きにきてくださいね!

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