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13候 玄鳥至(つばめきたる)

八ヶ岳では桃が満開で、桜は咲き始めだった。私の住む神奈川より一ヶ月位季節が巻き戻されたような感じがした。

雪が輝く山並みは絵みたいで、あそこに本当に登れるなんて不思議だ。絵の中のいちぶになるのだな。私がいるこの場所も引きで見れば、絵の中だ。

滝の水はかなり冷たかったけど、清められたくて裸足で入ってみたら1分位が限界だった。水に濡れた苔がきらきらしていて頬ずりしたかった。

ムスカリが土筆みたいにいっぱい生えていた。たんぽぽはおっきい。空が高かった。静かだな。普段の生活はどれだけnoisyなんだろう。

湧水がとにかく美味しい。ごくごくといくらでも飲めて、細胞に浸み込んでいく。

久しぶりに自分の部屋以外の場所で眠った。朝5時位に目が覚めたら、ちょっと混乱。そうだ、私は八ヶ岳に来ているんだよ。鳥のさえずりが起き抜けのBGMなんて、やっぱり絵本の世界。

女将さんに聞いたら、この辺りは8割が移住者だそう。女将さんご夫妻もそう。女将さんが決意して昨年からお宿を始められた。旦那さんは昨年からリモートワークになったので、週一回仕事で東京に行き、他の日はお宿のサポートをされている。職場の方には八ヶ岳に移住したのは内緒で、週一回会った時に「なんだか日に焼けましたね」と言われるとドキドキするそう(笑)

こんな生活もあるのだな。湧水が飲めて、自然に囲まれて、温泉に入れて、鳥のさえずりで目覚める。身体も心も軽やか。

住うということは楽しいことも辛いことも、ことばにできない体験の積み重ね。その土地に感謝と覚悟をもって根付く過程、たとえ旅を続けていても私達はいつもどこかの大地に到着している。全ては約束されているような気さえする。

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