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VNVnation

1)VNVnationについて。

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VNVnationはドイツ・ハンブルクをベースに活動をしているIndustrial/EBM/FuturePop/Trance/SynthPopアーティスト。
当初はロンドンを拠点にしていた。しかし、現在はバンドが最初に成功を収めた国でもあり、他国よりエレクトロ・シーンが確立されているドイツに拠点を移して活動している。特にドイツを中心としたヨーロッパとアメリカ/南米で人気が高い。
ジャーマン・ゴシック・シーンの中では中心に位置するアーティストである。
2017年11月に90年代から長年ライブメンバーとして共に活動してきたMark Jacksonが脱退し、現在のメンバーはRonanのみで、ライブはサポートメンバーと行っている。

2)Ronan Harrisについて

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1967年6月14日生まれ。アイルランド・ダブリン出身。
VNVnationは一見バンド形態のようではあるが、実際はRonanHarris本人が全ての歌詞や楽曲の製作、その他バンドの全てを一人で運営している。
バンド名の由来は「Victory」ではなく達成の為に常に努力すべきであり、過去に後悔をしないという願いを込めて付けられている。

3)バンドの経歴

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1995年に一作目となる「Advance and Follow」をリリース。この作品は80年代EBMの影響を強く受けていて、極めて電子的/機械的であり80年代EBM(エレクトロ・ボデイー・ミュージック)を彷彿とさせるサウンドである。しかしRonanはこのアルバムに納得がいかなかったらしく、これをデモ・アルバムとし。

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新規トラックを追加した「Advance and Follow V2」を2001年に再リリースしている。
”Cold"や”Aftershock”などの曲はそういったインダストリアル/EBMの影響が濃く出ていると言えよう。

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1998年には実質的に2作目であるが、公式にはファーストアルバムとなる「Praise the Fallen」をリリースする。これがデビュー時からの一連の流れを受けたEBM/Industrialアルバムとしてヒットし、成功への最初の手がかりとなった。
特にインダストリアルダンサーらに支持されたダンスチューンの”Joy"
"Honour"など。ハードなビートの曲が多い。

ちなみにRonanは1999年までオンラインのミュージックマガジン”Side Line ”のウエブマスターを務めていたが、これを契機に音楽活動に専念する事となる。

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1999年に発表された3作目「Empires」はドイツのオルタナティブチャート(DAC)で7週間連続トップを獲得し、飛躍的な成功を収めた。このアルバムで前作までのEBMで攻撃的な作風からより繊細かつメロディアスな方向に転換し。現在に至るVNVnationのベースはここで確立された。なおここまでの作品は全てProteus 2000 やRoland JV-1080などのシンセサイザーによって製作されていたが、これ以降はソフトウエアシンセサイザーによる楽曲製作を導入している。このアルバムにはダンサブルでゴシック色の強い”DarkAngel"に加え。”Standing""Legion"などのSynthPop的な曲も収録されている。

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2002年には4作目「Futureperfect」をリリース。ここでVNVは従来の楽曲からの一貫した流れであるインダストリアル/EBM的なアプローチに加えて、トランスやシンセポップの要素を加え。バンドとしてさらに大きく転換した。ダークな楽曲を好む従来のファンからは批判もあったようだが、このアルバムは一般にも聴きやすく、結果的にジャンルを超えて幅広く受け入れられることとなる。
このアルバムにはエモーショナルで美しい”Beloved”やダンスチューンな”Epicentre”などの現在に至るVNVの方向性がはっきりと形となって表れている。

こうした結果を受けて、この年にVNVnationは初のワールドツアーを敢行した。このツアーは「Pastperfect DVD」としてリリースされている。
そしてこの年にRonanHarrisとApoptygmaBerzerkのStefan L Grothは共に”FuturePop”というジャンルを提唱していく事となる。

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2005年には5作目の「Matter + Form」をリリース。前作のFutureperfectから更にそのスタイルを拡大し、従来より更にハードなビードを使用した”Chrom”やセンシティブでシンプルな“Color Of Rain”やドラムパートが足されロック的なアプローチを加えた“Perpetual”などの曲により以前より更にバラエティー感の増したアルバムとなっている。またこのアルバムでVNVnationは初のプロデューサーを起用した。

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2007年には5作目のアルバム「Judgement」をリリース。
このアルバムはハンブルクにあるVNVnationのスタジオで製作された。
タイトルが「審判」だったためにこれが最後のアルバムなのでは噂されたようだが、シカゴで行われたライブでRonanはこれを否定。これは終わりでは無く始まりだと発言した。
エモーショナルな"Carry You"や"The Farthest Star"や。後半で別に紹介している重要曲"Illusion"などがこのアルバムに収録されている。

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6枚目のアルバムの前に2009年の4月にライブとリミックスとDVDの収録された「Reformation 1」を発表(アメリカは5月発売)
ライブに加えて他のアーティストのRemixも収録されている。
”VNV Nation - Chrome ( SITD Remix)”
"VNV Nation - Carry You (Frozen Plasma Remix)"

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2009年には6作目のアルバム「Of Faith, Power and Glory」をリリース。
当初はアルバムを先にリリースする予定だったが「Reformation 1」を先に発売したためアルバムは予定より少し遅らせて発売された。このアルバムに至ってはもはや自信に満ち伸びやかなサウンドに円熟味と貫禄も備わっている。”Sentinel”や”Where There Is Light”などはまさにそういう曲である。

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2011年には7作目のアルバム「Automatic」をリリース
その前に本来はリミックスアルバムの「Crossing the Divide」をリリースする予定だったが、様々な理由により延期され。結果的にCDのリリースはされなかった。代わりにRonanはSoundCloudにその楽曲の無料ダウンロードを公開した。無料ダウンロードは現在も継続中。
「Automatic」には今もライブで必ず演奏される“Nova(Shine A Light On Me)”や”Space & time”などの人気曲が収録されている。

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2013年10月には8枚目のアルバム「Transnational」がリリースされた。
このアルバムに関しては既にスタイルも確立されて、それを継続しているので、そこまで変化が無いと言えばないのだが。特徴をあげるとすればよりエモーショナルさが増した事であろうか?聴く者の感情に直接訴えかけるような曲が多い。
このEverythingLost Horizonなどがそれであろう。

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2015年5月にはこれまでの楽曲をオーケストラで再現した「Resonance」をリリース。
これはドイツ・ライプツィヒで毎年行われるGothic meets Klassik,というゴシック・シーンのアーティストがクラッシックのアレンジでコンサートを行うものでVNVnationのこれまでの楽曲がオーケストラによって演奏された。同年にBlutengelStaubkindも参加している。しかしこの時の録音機器の状態がよくなかったとのことで、このアルバムは後にベルリンのスタジオで再録された。
このアルバムはアメリカのビルボード・クラシカル・クロスオーバーチャートで3位を獲得し、同ビルボード・クラッシック・ミュージックチャートでは4位を獲得した。
"Nova(largo)"はラルゴそのままにクラシカルで穏やかでゆるやかなアレンジ。
こちらはフルオーケストラバージョン。
"VNV Nation - Nova (Maestoso)"
VNVnationのアルバムにしばしば垣間見られるクラシックアプローチに関してはこのアルバムがその全てを物語っていると思う。


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2018年10月12日にリリースを予定されているオリジナルアルバムとしては実に5年ぶりで9作目となる「Noir」皆が待ちわびた新作のリリースにファンの期待は高い。

トラックリストはこちら。
01. A million
02. Armour
03. God of all
04. Nocturne No.7
05. Collide
06. Wonders
07. Immersed
08. Lights go out
09. Guiding
10. When is the future?
11. Only Satellites
12. Requiem for wires
13. All our sins

新曲のミュージックビデオは9月末に日本で撮影された。
恐らくVNVnationのMVで本人が出演しているのは初。
ロケ地は浅草/新宿/渋谷の模様。

歌詞はこちら。
=WHEN IS THE FUTURE?=
A STRANGER IN THE CROWD
TREADING FIRE AFTER DARK
LOST IN A CITY
PULSING TO A SOUND
OF THE SPIRIT AND SOUL
A CITY THAT IS BREATHING
LIVING THROUGH THE CABLES
ALIVE ACROSS THE WIRES
FACES WITHOUT NAMES
PLAYING DEVILS AND ANGELS
LIT UP BY THE STROBES
MOVING HYPNOTISED
I CAUGHT YOUR REFLECTION
IN THE NEON ON GLASS
AN ELECTRIC SILHOUETTE
AGAINST A STATIC SKY

IT’S A BEAUTIFUL DREAM
IT’S A BEAUTIFUL LIFE
IT’S JUST A REFLECTION
A WORLD THAT MUST SURVIVE
WE’RE CHILDREN OF THE PAST
WHO LOOK BEYOND TODAY
DESIGNING THE PRESENT
SO WHEN IS THE FUTURE
WE LIVE IN A DREAM
KEEPING VISIONS ALIVE
IT’S JUST A REFLECTION
A WORLD THAT NEVER DIES
AN IMAGE WE CREATE
IN OUR IMAGE WE DESIGN
IT’S A BEAUTIFUL LIFE
SO WHEN IS THE FUTURE

TIME MOVES SO FAST
IN A SINGLE DIRECTION
FIGHTING WITH A PRESENT
RACING FROM THE PAST
WE’RE SEARCHING FOR SOMETHING
THAT CAN NEVER SATISFY
THE REALITY OF ANSWERS
WHEN LIVES ARE ON THE LINE
I’VE WAITED A LIFETIME
FOR THE AGE OF WONDER
A PLACE THAT I REMEMBER
IN A SPLINTER OF TIME
A STRANGER IN A STRANGE LAND
CAUGHT IN THE FLOW
STILL SEARCHING FOR ANSWERS
AMONG THE NEON LIGHTS

4)FuturePopについて

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「Futureperfect」を発表した2002年に、RonanHarrisとノルウエーのバンドApoptygmaBerzerkのStefan L Grothが共に彼らの音楽を表現する為の”FuturePop”という造語を作り、それを提唱した。
”FuturePop”とはIndustrial/EBM+SynthPopをベースに。そこに更に高揚感&壮大なイメージを足し、時にTranceアレンジを加えるなどの、彼らの得意とするエモーショナルな楽曲スタイルを称する為に造られた造語だが。この後に同じスタイルのバンドが多く生まれ、近いスタイルのバンドもそう呼ばれるようになり、現在もドイツのゴシック・エレクトロ・シーンでは既に定着したジャンルとして認識されている。
しかし日本ではあまりこのゴシック・シーンが馴染みが無い上に、渋谷系ネオポップでも同じ言葉が使われているので日本人には殆ど認知されていない。
日本のアーティストとしては中田ヤスタカプロデュースのPerfumeなどは”FuturePop”とスタイルが近似しているが、直接の関係性は不明。そして余談だがPerfumeの今回のアルバムは”FuturePop”というタイトルである。

<FuturePopのアーティスト>
ApoptygmaBerzerk
VNVnation
Covenant
Assemblage23
Solitary Experiments
Frozen Plasma
Rotersand
Eisfabrik
Nueroticfish
I Con Of Coil

などが代表として挙げられる。
ApoptygmaBerzerkの曲でVNVnationがRemixを手掛けたこの曲を紹介する。
Apoptygma Berzerk - Kathy's Song (VNV Nation Remix)


VNVnationのライブにゲストで登場したStefan。
RonanがStefanを立てて終始控えめな所がとても好感が持てる。


5) Illusionという曲について。

「Judgement」に収録されている"Illusion"は2007年にロンドンでゴス・ファッションの二十歳の女性ソフィー・ランカスターが殺害された事件を元に、彼女へ鎮魂の意を込めて捧げられた曲である。
5人の暴徒のヘイトクライムにより若い命を奪われた彼女の無念と両親の悲嘆は察するに余りある。彼女のボーイフレンドはかろうじて命は取り留めたが、生涯に影響する重大な障害を負った。彼女は彼を庇って、そして無残に殺された。二人が発見された時は男女の区別すらつかなかったという。

この曲はUKで毎年開催されている“Infest Festival”で演奏された。その時Ronanは会場に来ていた彼女の家族に哀悼の意を伝えた。
この曲はライブで必ず演奏され、オーディエンスは明かりを灯しながら今もソフィーへの祈りを捧げる。
聴く人の胸を打つ、美しくも悲しい曲である。



=Illusion=


I know it's hard to tell how mixed up you feel
Hoping what you need is behind every door
Each time you get hurt, I don't want you to change
Because everyone has hopes, you're human after all

The feeling sometimes wishing you were someone else
Feeling as though you never belong
This feeling is not sadness, this feeling is not joy
I truly understand, please don't cry now

Please don't go, I want you to stay
I'm begging you, please, please don't leave here
I don't want you to hate for all the hurt that you feel
The world is just illusion trying to change you

Being like you are, well, this is something else
Who would comprehend? But some that do lay claim
Divine purpose blesses them, that's not what I believe
And it doesn't matter anyway

A part of your soul ties you to the next world
Or maybe to the last but I'm still not sure
But what I do know is to us the world is different
As we are to the world, I guess you would know that

Please don't go, I want you to stay
I'm begging you, please, please don't leave here
I don't want you to hate for all the hurt that you feel
The world is just illusion trying to change you

Please don't go, I want you to stay
I'm begging you, please, oh please don't leave here
I don't want you to change for all the hurt that you feel
This world is just illusion always trying to change you

Please don't go, I want you to stay
I'm begging you, please, please don't leave here
I don't want you to hate for all the hurt that you feel
This world is just illusion, trying to change you

Please don't go, I want you to stay
I'm begging you, please, oh please don't leave here
I don't want you to change for all the hurt that you feel
This world is just illusion always trying to change you

=イリュージョン=


私は知っている。あなたは自分の辛い気持ちをどう伝えればいいか混乱している。
あなたは自分の欲しい物が全てのドアの向こうにあって欲しいと思ってる。
あなたが傷つけられるたびに、あなたに変わって欲しくないと願う。
なぜならそれは全ての人が持つ望み。あなたは人間です。ただそれだけ。

私の心は時々あなたが他の誰かであって欲しいと望んでしまう。
あなたは決して他の誰でもありません。
この感情は悲しみでは無く、この感情は喜びでも無い。
私は心から理解しています。だから今は泣かないで。

行かないでください。私はあなたにいて欲しい。
私はあなたに心から願っています。どうぞ…どうぞここから去らないで
私はあなたが傷ついて全てを憎んで欲しくない。
この世界はただの錯覚で、あなたを変えようとしているのです。

あなたのような存在…うーん...これは別の誰かです。
誰があなたを理解するだろう?権利を主張している人もいる。
神は彼らを祝福します、しかしそれは私の信じるものではない。
でもそれは問題じゃない。

あなたの魂の一部があなたを別の世界につなぎ留める。
多分私には最後まで納得できない。
しかし私は知っている。私たちのこの世界が違う事を。
私たちは知っている。あなたもそれを知っているのだろう。

行かないでください。私はあなたにいて欲しい。
私はあなたに心から願っています。どうぞ…どうぞここから去らないで
私はあなたが傷ついて全てを憎んで欲しくない。
この世界はただの錯覚で、あなたを変えようとしているのです。

行かないでください。私はあなたにいて欲しい。
私はあなたに心から願っています。どうぞ…どうぞここから去らないで
私はあなたが傷ついて全てを憎んで欲しくない。
この世界はただの錯覚で、あなたを変えようとしているのです。

行かないでください。私はあなたにいて欲しい。
私はあなたに心から願っています。どうぞ…どうぞここから去らないで
私はあなたが傷ついて全てを憎んで欲しくない。
この世界はただの錯覚で、あなたを変えようとしているのです。

5)最後に

VNVnationが多くのファンに愛される理由。

VNVnationはファン層がゴシックミュージックファンに留まらない。

激しさと穏やかさ、否定と肯定、光と闇、厳格さと寛容さ。
時には相反するものを有し、一括りでは語れない深みがある。それがVNVnationの魅力なのではないかと思う。
YouTubeにファンが投稿していた一文が的確なので掲載しておく。
「VNV Nation are sunshine and beauty in a world that so often feels dark.」

ラストにRonan Harrisの人柄を垣間見る事が出来るこの動画をアップして終わる。M'eraLunaでVNVのカヴァーを演奏するA Life Divindedのライブに飛び入りするRonan(3分半頃から)。素顔は温かくカワイイおじさんなのだ。

来年は既にドイツの大型ゴシックフェス”M'eraLuna”とベルギーの”W-Fest”に出演が決定している。


筆者migon

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I AM ELECTRO主催
80年代~00年代のNoise/EBM/Industrialイベント“QUICK FIX”を2007年に始動。2014年に名称を“I AM ELECTRO”に変更し、現在のGerman Gothシーンが中心となる内容のイベントとして再始動、年に数回のペースで開催中。
イベント開催の他に、I AM ELECTRO名義で国内/海外アーティストのライブを企画/サポートをする等の活動も行っている。
主なジャンル
SynthPop/FuturePop/EBM/Industrial/Aggrotech/Hersh Electro
<その他の主催イベント>
●Colorless Dream
主に80年代のネオサイケデリック/ダークサイケデリック/シューゲイザー
ポジティブパンクのDJイベント
NeoPsychedelic/DarkPsychedelic/Shoegazer/PostPunk
Dark Wave/DeathRock/SynthWave/MinimalWave 

●P-MODEL/平沢進NIGHT
文字通りP-MODEL/平沢進が90%の濃いイベント

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