手紙
「パパへ」
乱雑に洗面台に置かれていた封筒には、弱々しい字でそう添えられていた。ポケモンのシールが貼られていた。
そういえば、昨日は父の日だった。私は一人暮らしで結婚はしていない。もちろん子供もいない。
同居人はいる。男だ。金のない友人だ。
彼のイタズラだと思い、封筒を開けた途端─────いきなり立ちくらみがして、立っていられなくなった。
封筒から手をはなし、
床に倒れ、
そのまま目を閉じた。
目を開けると、横たわる私の傍には知らない女がいた。 目の前には知らない子がいた。
私がゆっくりと起き上がると、子供は手紙を手渡してきた。ポケモンのシールが貼られていた。
手紙を開く。
「いつもお仕事ありがとう。虎舞竜も、頑張ってね。」
それから、私はこの世界で15年間高橋ジョージをしている。本名を高橋恭司というらしい。THE 虎舞竜のボーカルを担当している。
嘘かもしれないが、本当の事だ。
これは、誰にでも起こるかもしれない。いつか、元の世界に戻れるだろうか。そう思いながら、今日も「ロード」を歌う。
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