見出し画像

対立構造のないストーリーの難しさ 東方ロストワードを例にして

この記事は下記に当てはまる方向けの内容です。
・物語を作ったり作ろうとしたことがある
・東方ロストワードをプレイしており、感想や考察などを読んでみたいと思っている
・東方projectの因幡てゐちゃんがすき

なお、この記事は東方ロストワードストーリー1章のネタバレを若干ながら含みます。
また、作品そのものの好き嫌いではなく、できるだけ私はこう思うという観点から記述しています。

ちなみに今回の内容にてゐは全く関係ありませんが、私が好きなキャラなので自慢します。やっぱりイナバがナンバーワン。

さて、私は自分の考えを文章にするのが好きだ。物書きを生業にしているわけではないが、何か考え事をするときにはとりあえずメモ代わりにでも文書ファイルを作ってしまうことがある。この記事はふとした自分の考えをまとめたもので、読書感想文の一つだと思ってもらえれば嬉しい。

東方ロストワードは主人公の少女=プレイヤーが幻想郷に突如放り出され、博麗霊夢や霧雨魔理沙と言ったお馴染みの面々と幻想郷を巡っていき、自分を巻き込んだ「封結晶」そしてロストワード異変そのものに関わっていくというストーリーとなっている。序章では紅魔館、白玉楼、永遠亭の三勢力が封結晶に着目し、何かしらの利用ができないかと考えていたようだ。
序章の勢力はなんやかんやあって霊夢たちにしばき倒されることになり、封結晶の調査は霊夢とプレイヤーが中心になって行っていくことになるのだが、ここにはわかりやすい対立構造がちゃんと作られていた。

画像1

永琳が研究するなら安全に違いない

さて、東方projectの作品シリーズは善かれ悪しかれ理由を持った「敵」が存在し、それを「幻想郷の味方」である霊夢たちが解決していくという、ある種の勧善懲悪的ストーリーで展開していくことが多い。場合によっては腹立ちまぎれにやっているようにすら見え、彼女らが味方であるかどうかすら疑わしいこともあるが、とにかく敵となる存在がおり、こちらから撃つのに躊躇う理由はないと言える。両者正論なら弾幕勝負で決着をつけるのが、プレイヤーも納得できるお決まりのパターンだ。
ここにも対立構造がある。対立構造はストーリーの軸だ。

東方ロストワードのストーリー第1章では、謎の赤い封結晶の力により並行世界とも言える幻想郷に主人公たちは飛ばされてしまう。「幻想孤島」と題されたそこでは幻想郷の周囲が海になっており、神社に学校が建っているなどの、東方Projectを知っているプレイヤー側から見れば、あり得ないほどの不可解な現象が発生している。
主人公たちは幻想郷が綴じられていくタイムリミットの迫る中、八雲紫に応じて失われた言葉を探し求める=ロストワード異変の解決を目指すこととなる。ここからのストーリー構成にかかる部分が本題だ。

ロストワード異変においては、対立構造はプレイヤーたちと異変そのものの間で成立しており、原作シリーズのように黒幕を倒すことでクリアとなるようなものではない。そのため、第一章における対立は非常に曖昧なものとなっており、そもそも戦う理由を見出すことができない戦闘が多くあった。
プレイヤーたちの前には茨木華扇をはじめとする幻想郷の実力者が多く現れ、彼女らとも戦うことになるのだが、ストーリーの本筋から言えばほとんど影響がなかったのではないかと考えている。
メタ的な話を言えばこれはゲームのチュートリアルも兼ねており、キャラ見せでもあり、世界観の紹介だった。そういう意味では個々のキャラに役割を持たせすぎることが難しくなるのも理解はできる。
しかし、突飛な理由で戦わされたという印象は拭い切れない。今そこに差し迫る幻想郷の危機を共有すべき存在達がこぞって弾幕ごっこに興じるのは、非常に違和感を覚えた。

画像2

ストーリー上は戦うと力が出る(要約)という理由で弾幕勝負が始まることが多かった

例えばの話になるが、これがロストワード異変が原因で幻想郷の住人の頭がおかしく(或いはもっとまともに)なって霊夢たちに襲い掛かってくるような話であれば、ストーリーの組み立て方は楽になっていたはずだ。主人公サイドは容赦なく「敵」をぶっ飛ばしていけばそのうち解決できるように考えるに違いない。正直なところ、RPGというゲーム特性上、このような構成のほうが戦闘の意味づけを載せやすく、うまくいくのではないかと考えたりもしている。

最終的にロストワードは主人公と霊夢によって解かれ、プレイヤーはとある人物に勝利することでもとの幻想郷へと復帰するのだが、それも対立が収まった結果とは言えない。あくまで「幻想孤島」編についての一件落着であり手打ちであり、予定調和のような終わり方だった。
当然そうなるだろうと考えていたので流れとしては良かったのだが、通しの展開で見れば不完全燃焼ではある。以後のストーリーに期待しているところだ。

話を戻そう。東方ロストワードには賛否両論はあると思うが、着想点の良さがある。オリジナル主人公を用いてストーリー構成を行ったのは、ある種「なろう小説」や「異世界転生」のような大胆な試みだと言える。私は新しい視点で作品が作られることに大賛成だ。東方Projectにはそれを可能にするだけの土台があると思っているし、創作の幅も自由であって欲しいと強く願っている。

私が東方ロストワードに期待しているのは、メインストーリーへの没入感だ。他要素は目を瞑ってもいいが、ここだけはどんな他作品とも差別化して欲しいと思う。東方ロストワードの舞台でしかできないことこそが作品の最大の魅力になる。それだけに幕間の探索戦のような、ゲーム的要素のためにクールダウンしてしまう瞬間があるのはとても勿体なく感じるのだ。個人的な意見ではあるが、周回ゲームをさせたいだけなら東方ロストワードである必要がないことに、製作陣も気付いているのではないだろうか。

画像3

妖精や毛玉と戦うだけの探索戦は必要だろうか?

対立構造がストーリーの軸にならなかったとしても、RPGのアウトラインとしては味方と敵を作らなければならない。その理由でシステムや冗長なエリアが作られたなら、それは悲劇かもしれない。東方ロストワードがソシャゲだからと言う理由のために諦めなければいけない表現が生まれないよう、私は願うばかりだ。たとえ好き嫌いが別れるものでも、最大限まで自由に作品を制作して欲しいと思っている。

まとめよう。
・東方ロストワードの一章では明確な対立構造が描写されないため、物語とゲームシステムの噛み合わない点を多く感じた。

・私は東方ロストワードのストーリー性に高く期待していて、どのように続いていくかが気になっている。

・東方ロストワードがゲームという制約のために、自由な作品作りが阻害されないことを願っている。

ここまで読んでくださった方に感謝します。
https://twitter.com/migawari_touhou


※この記事を書き終わった時点でストーリー2章前半が追加されていますが、まとまったプレイ時間を取れていないため筆者は未読となっています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?