かーくん

小学校5年生の頃の話。

修学旅行。行き先は水族館だった。

私は当時、よく寝起きに鼻血を出していた。その日、あろうことか、水族館へ行く道で鼻血を出してしまった。私は列の後ろから2番目を歩いていた。誰も気づいていない。

その時、すぐ後ろにいたかーくんがさっと私の前にきた。

「ここがよかろーもん。」

無愛想にそう言って、ぷいっと前を向いて。

列の最後尾でかーくんの背中を見ながら、私はティッシュで鼻を押さえていた。守られてるなって思った。かーくんは優しいな。それ以外のことは、何も覚えていない。

同じ中学校に進んだけど、クラスは一緒になることもなく、部活も入らなかったかーくんは、不良とつるむようになって、疎遠になってしまった。

私は進学校へ行き、彼は就職したと風の噂で聞いた。かーくんのことが好きだとは、好きだったということさえも、誰にも話したことがない。

私も今年三十路になり、この春、同窓会の連絡がきた。私は大学進学とともに地元を離れたので、参加しなかった。

ラインのアルバム作成の通知が来る。参加人数が多いので通知が煩い。あえてすぐ確認せず、次の日、娘が昼寝したタイミングで、ラインを開いた。

15年ぶりに見る彼は、パーマをかけ、耳にはピアス。ああ、そうだよなあ、違う世界に行ってしまったんだな。でも笑い方、全然変わってない。

会わなくて良かったな、元気でやっててよかった。

多分、純粋に恋したの、あれが最初で最後やったなあ。もう会わんやろうけど、元気でね。

あの時は ありがとう。


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