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令和の今だからこそ、Baby Princessの話をしよう

今となってはもう忘れ去られつつある企画「Baby Princess」。今日はこの「Baby Princess」略して「べビプリ」を振り返ろうと思うのですが、まずはその前段としてのシスター・プリンセスから話を始めたいと思います。


前置き:シスター・プリンセスの話

シスター・プリンセスの衝撃

2019年に行われたシスター・プリンセス20周年記念プロジェクトに続き、今年2024年には25周年記念プロジェクトが始動しました。

「シスタープリンセス」、略して「シスプリ」についてはすでにご存じの方も多いと思うのですが、もともとは雑誌の視聴者参加型企画から始まり、その後アニメ、ゲームとさまざまなメディアミックスによりどんどん巨大化したプロジェクトです。主人公と、その妹たちの交流が主な内容なのですが、なんとその妹の数は総勢12人!これは、企画開始当時の2000年頃には衝撃的な出来事でした。

「そんなにたくさんの妹を、一つの作品の中に登場させてもいいんだ…。」

いや、だって妹が12人ってどういうことですか?彼女たちが異母姉妹かどうか、または血のつながりがあるのかどうかは言及されていないのですが、たとえ義理の姉妹であっても12人、しかも妹だけというのはいくらフィクションと言えども振り切り方が半端ではないです。

(余談)
なお、ゲーム版の「シスター・プリンセス」は恋愛シミュレーションゲームとなっており、12人の妹それぞれに対して「血縁エンド」「非血縁エンド」が用意されています

12人の妹たち(アニメ版ではオリジナルキャラクターの眞深まみみを含めて13人)ひとりひとりが兄である主人公を呼ぶときの呼び方が異なっていることも話題となりました。

Wikipedia「シスター・プリンセス」ページより

よく、英語では一人称単数代名詞が「I」しかないのに対し、日本語では「わたし」「僕」「わたくし」「俺」「わし」「拙者」など大量に存在することをもって日本語の豊かさを主張する方がいますが、これを見ると英語もなかなかどうしてよくかんばっていると思います。対して香港・台湾版はもっと頑張れよとも思います。

シスプリは企画やゲーム化、アニメ化がリアルタイムで進んだゼロ年代には絶大な支持を集めました。25周年プロジェクトでは目標額2000万円としてクラウドファンディングが行われているのですが、すでに2200万円以上を集めている(2024/8/17時点)ことからもわかるように、今でも根強い人気がある企画です。

生みの親である公野櫻子について

シスプリはたくさんの人が関与する巨大企画なので誰か一人の人物を「作者」として定めるのは適当ではないように思うのですが、あえて一人を選ぶとするとやはり公野櫻子となるでしょう。

あまり自信がないのですが、少なくとも「公野櫻子」という名前を公に使用しだしたのはシスプリが最初だったと思います。つまりは、公野櫻子にとってはシスプリはデビュー作です。
キャラクターの設定と、テキスト全般を担当した公野櫻子は、シスプリ全体に漂う、非現実的でふわふわした多幸感あふれる世界観を作り出しました。彼女の生み出すもののとりことなったファンたちは、彼女のことを「GOD」と呼ぶようになりました
2010年以降になると、公野櫻子はラブライブ!シリーズの作者としての活躍が目立ちます。シスプリではオタク界に限定されたややアングラ的な人気だった公野櫻子でしたが、ラブライブ!では自治体とコラボするなど一般にも名を知られた存在となりました。

長い前置きを経て、やっとべビプリの話

ベビプリがいかにすごい作品であるかの紹介

シスプリで一大ムーブメントを引き起こした公野櫻子が、2007年に満を持して発表した作品が「Baby Princess」でした。

シスプリでは公式名称が「シスター・プリンセス」とカタカナだったのに対して、ベビプリでは「Baby Princess」と英語になりちょっとランクアップした印象。このベビプリはシスプリと同様、主人公とその姉妹たちとの交流を描いた物語なのですが、なんと姉妹の人数が12人→19人と1.58倍に大幅増したのです!これは、少子化が日本という国家の継続性を脅かす重大な問題と認識されている令和の今、ぜひ見直すべき作品だと思います。

それ以外の設定もどれもこれも驚きの内容ですが、ひとつひとつ詳しく述べるといくら文字数があっても足りないので箇条書きにします。

  • 姉妹の年齢は、最年長である長女は18歳の大学生である海晴 みはる。次女は17歳の高校三年生みぞれ。そこから先は全員一歳違いで最年少は十九女(という単語も初耳ですが)のゼロ歳児あさひ。

  • シスプリでは異母姉妹である可能性は排除されていませんでしたが、ベビプリでは彼女たちの母親は一人だと明言されています。芸能事務所の社長で19人姉妹をタレントにしようと考えており、海晴はその第一号としてお天気お姉さんを務めています。

  • サザエさん時空を採用しており、彼女たちは年を取りません。そのため、ゼロ歳児あさひについては、ゼロ歳の誕生日という時空がゆがんだお祝いがなされました。

  • 姉妹たちと主人公の交換日記という設定で、WHOLE SWEET LIFEというブログが2007年12月24日から2012年3月31日までの平日に毎日更新されました。無料コンテンツとしては異例の力の入れようだと思います。これは現実の出来事とも連動しており、東日本大震災の際は数日更新が止まったのち、彼女たちが地震に言及する記事が掲載されています。
    URLが「http://gs.dengeki.com/suteki/blog/」となっており、「suteki」の文字列にセンスが光ります。

  • ベビプリファンたちのことを「トゥルー家族」と呼びます。これは、物語の最初に孤独だった主人公が生き別れの母親と出会い、自分に19人もの姉妹がいることを知った際の文章「おめでとう!あなたの本当の家族は、ここにいたんです――。」からきています。

どれもこれもとんでもない設定です。変に正気が残っていたら、この企画段階で「非現実的」だと却下してしまいそうなものばかりですが、これが通ってしまってしかも作品としてちゃんと成り立つのだからすごいことです。プロはやはり違います。

十九人姉妹だとか、いきなり生き別れの母親と出会って大量の姉妹が突然現れるだとか、いろいろと突っ込みどころはあるのですが、やはり一番気になるのは彼女たちの母親が同一人物だということでしょう。
同じ母親から十九人の年子を産むことができるのでしょうか?という問いに対する答えは自明ではあるのですが、とりあえず姉妹間の日齢差を算出してみました。

ベビプリ姉妹たちの年齢と誕生日まとめ

日齢差については、一年を365日と仮定して算出しました。多くの姉妹間で妊娠に必要とされる280日+αは確保されている(といいつつ産後の回復期間が全く考慮されていないのですが…)のですが、やはり目立つのは六女氷柱ひさめと七女立夏りっか、および十八女青空そらと十九女あさひの日齢差です。その間わずか一か月前後。人間には絶対にありえない話なのですが、物語中では本件は完全に無視されています。企画する人が気づかなかったわけはないので、意図的にこの話には触れないようにしていたのでしょう。

Baby Princess公式ファンブック「My Dearest True Family」より。
シスプリで発揮された、脳が溶けそうな文体はベビプリでも健在です。

不遇のベビプリ

これほどのすごい作品なのですが、シスプリと違い○○周年プロジェクトといったプロジェクトについては、全くその気配を感じません。むしろ、ベビプリをなかったことにしたいのではないかと思うくらいに、全く触れられない作品となってしまいました。

例えば、上述したブログ「WHOLE SWEET LIFE」は、2012年3月31日の更新終了後もアーカイブとして「電撃オンライン」上にしばらく残っていたのですが、2013年のサーバー障害により公式サイトごとすべて消失してしまいました。あれほど力を入れて更新されてきたコンテンツだったのですが、紙や書籍などの別の形でも残っていません。今となっては、インターネットアーカイブで見る以外の方法がない状態です。

*上記電撃オンラインは、カドカワグループが運営していました。最近、同じカドカワグループであるニコニコがランサムウェアの被害を受けたのですが、個人的にはベビプリのブログ消失事件との連想から、カドカワグループはサーバ障害への対策が弱いのかと邪推したりもしました。

また、公野櫻子が執筆したライトノベル版Baby Princessは2011年に発行された7巻を最後に続刊の気配を感じられません

Baby Princess⑦より。おい!本当にBaby Princess⑧に続くんだろうな!

作者でありGODでもある公野櫻子がラブライブにかかりきりになっている以上、少なくとも当分はBaby Princessの続きを期待することはできないでしょう。かなりの高確率で、いわゆる「エタってしまった」状態と考えたほうがよさそうです。

ベビプリはシスプリほど人気がなかったのか

ここでベビプリとシスプリの相互比較をまとめてみたいと思います。

さまざまな要素について客観的に比較

こうやってみると、ベビプリはシスプリの上位互換のような気がしてきます。してきませんか?
しかし、ベビプリがシスプリほど人気があったかというと、残念ながら答えは「No」となります。もちろん、完全な失敗コンテンツではないのですが、シスプリほどの熱狂的な盛り上がりを見せたかというと、そうではありませんでした。
この原因はいったい何だったのか?ということについては、今でも答えは出ていないと思います。ただひとつだけ、一度に登場させる姉妹の数として、12人がギリギリであったとはいえるでしょう。21人もいたら登場人物の名前を覚えるだけでもとても大変ですし、おとなしいキャラでいうと八女小雨こさめと十三女綿雪わたゆき、元気キャラでいうと十女星花せいかと十一女夕凪ゆうななどどうしてもキャラ被りは避けられません。

多けりゃいいってもんじゃないってことを、肝に銘じておいてクダサーイ!

というのが教訓なのかもしれません。
私はまだ、ベビプリの続きを熱望しているのですが…。

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