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【たべもの九十九・や】野草酵素ジュース〜ぼくらはみんな生きている

(料理研究家でエッセイストの高山なおみさんのご本『たべもの九十九』に倣って、食べ物の思い出をあいうえお順に綴っています)

数年前から毎年春と秋に野草を摘んで果物や野菜と合わせて野草酵素ジュース作りをしている。野草は山梨県大月市にあるピラミッドセンターで摘ませてもらっている。

ピラミッドセンターは、JR中央線の梁川駅から歩いて10分くらい、里山に囲まれた自然豊かな場所にピラミッド型の建物があるイベントスペースだ。近くに桂川という川が流れる。

大月ピラミッドセンター

今年は5月半ばの満月の日に仕込んだ。朝から雨が降ったり止んだりの日であったが、レインウェアを着てビニール袋を持って敷地内に自生している野草を積む。名前のわかるものもあればわからないものもある。事前にオシロイバナなど入れないほうがいいもの、毒性のあるものを教えてもらい、あとはなんでも好きな草を取ってよい。

「あ、これ入れよう!」というインスピレーションに従って草を摘む。草摘みそれ自体が自然との会話。クローバー、ナズナ、タンポポ、オオバコ、ハルジョオン、ヨモギ、ギシギシ、名前のわかる野草の方が少なく、庭をぐるっと回りながら木の葉っぱや咲いている花も袋に入れていった。

300g〜400gほどの草を摘んだら、ピラミッドセンターの管理人さんに用意していただいた無農薬栽培の野菜や果物を足して2kgにする。夏みかん、青梗菜、葉つき人参、スナップエンドウ、青梅、ラディッシュ。

作り方は簡単で、材料を水洗いし水切りをしてから細かく切り刻み、白砂糖と材料を交互にミルフィーユ状に瓶に詰めていく。草摘みの日の作業は詰めるまで。

翌日溶け掛けた砂糖と材料を手で愛情込めてよく混ぜ合わせる。それ以降は発酵してふつふつと白い泡が立つようになるまで毎日1〜2回混ぜ合わせるだけ。出来上がった酵素シロップは水切りネットをザルに掛けて濾す。保存するのはガラスの瓶がよい。
シロップができたらそれをグラスに入れ、炭酸水や水で割ったら酵素ジュースの出来上がりだ。

つまり酵素ジュースとは、草や野菜、フルーツなど素材や菌が持っている酵素と微生物自体の働きによって発酵させた植物飲料である。素手で作るので自分の常在菌も入る。その時その時の材料で味も変わる。

酵素ジュースのシロップは生きている(正確にはその中にいる菌や微生物が)ので、シロップには仕込んだ日付を入れて発酵が進まないように冷蔵庫で保管する。よく洗った卵の殻やサンゴを入れておくと常温でも発酵を抑えることができるらしい。私はガラス瓶やガラスのボトルに入れて冷蔵庫に保管しているので冷蔵庫の中にはちょっとした酵素ジュースコレクションが存在する。

初めて野草酵素ジュースを作りに行った時、作り方を教えてくれたピラミッドセンターのご主人であるあつみさんが「単品でもできるのよ。トマトとかも美味しいわよ。濾した後のトマトがジャムみたいになってね、それも食べられるし」と教えてくれたので、野草酵素ジュース以外にもトマト、夏みかん、いちご、梅、柚子、カボチャとキウィなど、これまでいろいろ作ってきた。

野草酵素ジュースは安心して野草が摘める場所でないと作る気がしないので、春と秋のピラミッドセンターでのワークショップを楽しみに続けている。そしてピラミッドセンターでのお楽しみはそれだけではない。植物由来の食材だけを使ったランチがべらぼうに美味しいのだ。

以前はオーナーのあつみさんが、今は代替わりして娘さんのともこさんが滋味溢れるご飯を作ってくれる。

ピラミッドセンターのランチ〜滋味あふれるごはん

この日のランチは
ケールのサラダ、自家製人参ドレッシング
春菊のチヂミ
がんも
ふきの煮付け(その日の朝、庭で摘んだもの)
ひじきの梅と醤油麹和え
五分付き米
ひじきと葱のお吸い物

野草を積み、ザルに入れて洗って、水切りをする。
その間にランチを食べる。ひと口ごとに心も体も満たされていく感覚がある。加工食品がほとんどないからだろうか。大地や海から直接やってきたモノたち。ああ、自然の恵みを、いのちをいただいているな、と思う。ピラミッドセンターの緑に囲まれた環境で食べているから、なおさらそのように感じるのかもしれない。

私たちは食べなくては生きていけない。他の生命をいただき、自分の生命を繋いでいる。ご飯を食べるときに「いただきます」と感謝する日本人の習慣は、他の生命への畏敬と感謝の習慣なのだ。そんなことを思わずに「いただきます」という言葉を使っていたとしても、その言葉自体に感謝の思いは宿っている、と私は思うのである。

酵素ジュースを作るのは生命を感じるため、なあんて言うつもりはない。でもね、ガラス瓶の中でフツフツと息をし、手を入れると温かみを感じるとき、そこに目に見えない生命の営みを感じることは確かだ。

ぼくらはみんな生きている。生命の循環の中で生きている。

★★★いつも読んでくださってありがとうございます!「スキ」とか「フォロー」とか「コメント」をいただけたら励みになります!最後まで、食の思い出にお付き合いいただけましたら嬉しいです!(いんでんみえ)★★★

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