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真夜中の子供


住んでいた家の斜め前に
東京で手芸教室を
運営している方が
ご主人の転勤で
来られていた。

幼稚園のママ友と
週2日手芸を習いに通い始めた。
先生は
作家辻仁成さんの
ご家族と社宅が一緒で
小さな頃から
"ひとちゃん"と呼んで
家族ぐるみの長い
お付き合いをされていた
そうで
辻仁成さんのエピソードを
数々聞かせて頂いた。

その"ひとちゃん"が多才な
才能をあちこちの分野で
開花させている事を
先生も自分の事のように
喜び誇らしく
思われているようだった。

小説"真夜中の子供"は
辻仁成さんが幼少期から
暫く暮らした博多にある

西日本最大の歓楽街
中洲を舞台に書かれたものだ。

少年Rを主人公に
繰り広げられる話だ。

当初 少年は6才だった。
中洲で働く母と愛人の男
二人からネグレクトを
受けている。母は息子を無戸籍児にしているのだ。 
DVを繰り返す前夫から
逃れてきた街が中洲。

中洲交番に勤務する
Hは暖かい家庭に育った
好青年だ。保育士をする
優しい恋人がいる。

中洲の街を毎日
ふらふらと歩き
母親も通うラーメン屋の
店員や見知った大人たちの
善意や厚意を受けながら
日々極限の状態で
過ごしている。無戸籍だから就学も出来ない。
社会のセーフティネットから抜け落ちた存在だ。
母親は
息子の将来など考える様子もなく刹那的に今を生きる女だ。暗闇に落ちる手前で
誰かしらRを救う人が現れる。奇跡ともいえる位の極限の状況に置かれている。

中洲という一種独特の土地柄とそこに縁を持つ人々の心根からだろうか?
いつも誰かしらが
見守ってくれている。
いつも危険をすり抜けながらギリギリ生きているのだ。
そんな少年は中洲の街中を知り尽くしている。
道をもだ
だから自在に歩く。
ふらふらとゆらゆらと。
そんなRは中洲の有名人だ。

警官はHは
誠実さを持ち少年に深く
関わっていく。

沢山の人々の厚意を
受けて成長していく様子は
ページを繰る手が段々
早くなる程だった。

余談だが
私のメンテナンスの先生が
僕の事ですねと云われた。
ギャンブル好きの両親が
パチンコに興じる間
1万円札を握らされて
中洲の街中を彷徨って
ましたよ僕もと笑顔で
云われる。真夜中の子供は
身近にいたのだ。


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