余命1年

もし自分が余命1年だったらなにをするだろうか。

イイ男をだまして遊んでから死ぬ?
タバコの煙で自分を芸術にしてから死ぬ?
歌舞伎町に出て酒を浴びるほど飲んでから死ぬ?
それとも…。

20‪✕‬‪✕‬年 年に1度の祭りの日
その日に私は                死んだ。

人生を見返してみよう。

私は医師に余命1年と告げられた。
原因不明の病気に医師たちも頭を抱える。
余命を告げられた時は「1年もあんの。」
正直言って生きることが辛かった。
昔からいじめられっ子で、世の中の

「いじめる方も悪いがいじめられる方も悪い」

この言葉が自分の中に入ってきた瞬間、
人生が終わった。

自分を責め続け、傷つけた。
何がしたかったのだろう。
その時の記憶はあまり覚えていない。

「死にたい」というと「じゃあ死んでみ?」って。
実際死ねない。死ぬのが怖い気持ちもある。
しかし病気になってからは
「死にたい」        と言わなくなった。
なぜなら、そんなこと言わなくても"死ぬ"からだ。

神様、いや死神様に感謝だ。
私を選んでくれてありがとう。
これで私は自由になれる。

その頃だった。   

私たちの糸電話は徐々に繋がり始めていたのは。

20‪✕‬‪‪✕‬年  この出会いが私を変えた。

私にも一応友達はいる。その唯一の友達に誘われて古着屋に来た。その時の服装はいかにも地雷系(?)
とてもではないけど、古着を買いに来るような見た目ではなかった。しかし友達が「イイじゃん!行こ行こ!!あんたあとちょっとしかないし!」
気を使っているのか、デリカシーがないのか。
とりあえず店内に入る。いろんな古着が掛かっていた。
その時 「このTシャツ良いですよね」 と一言。
振り向くとそこには、彼がいた。

パーマがかかった髪。
ベージュ色で花柄の刺繍が入っているシャツ。
色が濃いめなジーパン。
革靴。

「このTシャツに描いてあるこの人が好きなんです」

「そうなんですね!これまじでおしゃれっすよ」

普通の店員との会話。何気ない会話。

友達は攻める

「え、お兄さんいくつ???」

「18!」

「え!!見えな〜い!」

「(どっちの意味!?!?)」

「うちらいくつに見える〜?」

「1~2個下???」

「うちらね高1www」

「えっ!まじ!?!?」

このホントに些細な会話が
私にとっては幸せだった。

20‪✕‬‪✕‬年  あの幸せな日から1ヶ月後
私の容態が急変した。
突然髪が抜け、歩けなくなった。車椅子だ。
病院の窓から外を見る。
あー。もう外に出ないで死ぬんだ。
人生そんなもんか。あー。

ガチャッ((

「親父来るの珍しく早いじゃん。どうした?」

振り返ると、そこには古着屋で出会った彼がいた。

「調子どう?」

私は思わずうつむいた。

「まあまあかな。それよりなんでここに?」

「○○に聞いた。入院したって」  (○○は友達)

「(あいつ、狙ったわ)わざわざありがとう」

「全然。むしろ顔見たかったから。」

「え?、あ、最近仕事どう?」

「楽しいよ。いろんなお客さんがいて…」

「いいね。楽しそう。」

「あ、あのさ」

「ん?どうした?」

「来週の祭り、一緒に行こ」

「え?、、、」

「ダメかな?」

「行きたい…よ」

「あっ、でももしかして病院から出れない…?」

「(コクッ)」

「そっか〜…よしっ!」

「???」

「その日抜け出そう。2人で。」

「え、なにそのくさいセリフ」

「え、たしかに」

2人で笑った。色んな話もして笑った。
そして計画を立てた。抜け出す計画。

窓から入り込む夏風は
なんだか涼しいような寂しいような感じがした。

20‪✕‬‪✕‬年 お祭り当日

「おまたせ」
病室に彼が来てくれた。
そして私たちは夕方の病院を抜け出し、
夕暮れの中へ消えていった。
あの夕日は私たちに何を伝えたのだろう。

そのお祭りでは屋台があり、最後には花火があがるという大規模な祭りだ。

「見て見て!金魚!」
彼が見せてきた袋の中には赤みが強い金魚が2匹。

「取ってきたんだ!下手すぎて2匹しか取れなかったけど」

笑った。今までにないくらい笑った。

今思えばこの金魚は私たちのことだったのかもしれない。なんて考えてみる。

花火を見るために場所取りをしてくれる彼。
荷物持ちな私。笑える。

「ちょっとお手洗い行ってくる」

「1人で大丈夫???」

「大丈夫!道に階段ないし万が一の時はブザー鳴らすから!車椅子なめんなよっ!」

「じゃあ場所取りしとくね!」

「うん!ありがとう。」

花火打ち上げ時間

「(帰ってこないな…。電話も繋がらない…。)」

彼は何かを思い出したように走っていった。

その目はまるで儚いものが消える瞬間。

そう彼は彼女の考えていることがわかってしまった。

糸電話が繋がってしまった。

「赤い糸なんてない、けど糸電話は繋がった。それだけでも私の人生幸せだった。あなたの糸電話の相手になれて良かった。さようならじゃないよ。またね。来世は金魚がいいな。2人で同じ鉢に住みたいな。2人で同じ水の中で優雅に踊りたいな。2人で1つの綺麗な芸術を創り出したいな…。私はこれから芸術になる。作品になろうとしている。あ、あなたの寝顔愛おしかった。病室で仕事終わりに来て朝まで一緒に居てくれたの気づいてたよ。じゃあ、今度は私があなたを見守る番だよ。またね。あとで。」

そんな遺書を残し、彼女は花火と共に咲き散った。
彼女は余命より早く自ら命を絶った。

20‪✕‬‪✕‬年 彼女の葬式

彼女の父に全てを話した。

看病へ行っていたこと。
病院を抜け出して祭りへ行ったこと。
彼女を愛していたこと。

そしたら彼女の父がこう言った。

「あいつもな、あんたの事が好きだったみたいだ。私によく話してくれたよ。「儚くてすぐどこかへ行ってしまいそうな、そんな目が離せない人に会ったよ。親父とは似ても似つかない人にね。」って、どこか遠くを見つめながら。あなたのことだったのか。ありがとう。そしてごめんよ。あなたも苦しんだだろ。ごめんな。」

「いえ、むしろありがとうございます。娘さんの貴重な時間を一緒に過ごせたこと、とても光栄です。娘さんはよくお父さんの話をしてくれました。ほとんど愚痴でしたが、またそれが愛情というか、親子の絆を感じました。私が初めて彼女に会いに行った時、扉を開けた音で「親父、今日早いじゃん」と第一声がお父さんのことでした。それほど娘さんはあなたのことを待っていたということです。その一言を聞いた時、私は彼女をもっと好きになりました。だからお父さん謝らないでください。むしろ謝りたいのはこちらです。最後まで見届けることができなくて申し訳ありませんでした。」

「君はまるで娘そっくりだ」

「え???」

「その自分を下にするような姿勢」

「???」

「君になら娘を任せられたよ」

「ありがとうございます」

「こちらこそ」

こうやってひと夏の恋は呆気なく終わった。

金魚は同じ鉢に2匹飼われている。

愛しあっている。けどいつか別れがくる。

さようなら、じゃないよ。

またね。

また、どこかで、

一緒に夏を見よう。

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