推しが来るらしい、6年振りに。

 推しが実装されることになった。まだ顔も知らないけれど、推しだということは確定している。しかもかれこれ6年振りに。
 何を言っているのかわからないかもしれない。私もよくわかっていない。なにしろ、まだうまいこと現実を受け止め切れていないのだ。どうか多目に見て欲しい。

 「推しが実装される」、これだけならままあることだろうと思う。アニメ版のオリキャラがソシャゲ版にも実装されるとか。新規ゲームの告知動画で一目惚れしたキャラがサービス開始に伴い実装されるとか。サポートキャラとしては以前から存在した推しがプレイアブルキャラとして待望の実装と相成るとか。いずれにせよオタクはしぬ。
 「顔も知らない」、これは実を言うと状況上しょうがない。しょうがないけれど冷静に考えると不思議な現象ではある。でも平安貴族だって顔を知らない相手に恋をしていただろうし、そういうこともあるだろう。
 そして、「6年振り」。待たされた期間が、私には長すぎた。
(続編を10年以上待っているオタクもいるんですよ!とかそういう話じゃない。6年の待ちが、私にとっては耐えられない長さだったという話だ。比較はしていないんだ許してくれ。)


 「艦これ」というゲームがある。
https://www.dmm.com/netgame/feature/kancolle.html
擬人化された軍艦「艦娘」たちを育成して、敵を撃破していくゲームだと思う。たぶん。ご存じない方は実物を見るなりググるなりして欲しい。大変申し訳ないけれど十全な説明をできる自信はない。なにしろ私たちは雰囲気で艦これをやっている。

 艦娘たちの中に、「陽炎型」と呼ばれる駆逐艦の姉妹がいる。私の推しだ。嫁艦は軽巡の龍田さん、メインの推しは陽炎型、他にも好きな娘多数、というスタンスで艦これをやっていた。
 たしか2015年前半のうちに野分と舞風にハマり、同年末頃には実装済みの陽炎型姉妹全員が推しになっていた。以来、限定グラが来れば運営に向かって五体投地をして感謝を捧げ、陽炎型界隈で神と崇める同人作家の先生方に出会い、ツイッターに作品が投稿されればそっとファボを押して喜びの舞を舞い、聖典とも呼ぶべき御本を拝読してはあまりの尊さにのたうち回るなどした。おかげさまで私の人生は随分変わった。とにかく、陽炎型を好きになった。
 したがって、推しの姉妹なのだから新規実装艦も間違いなく推しになる。


 長姉の「陽炎」から末妹の「秋雲」まで、モデルとなった帝国海軍の陽炎型駆逐艦には19隻の姉妹がいた。そのうち現在(2022年5月27日のメンテ前)までに実装されたのは17人、最後に実装されたのは2016年春の親潮。いろんなものをかなぐり捨てて、姉妹総出で迎えに行ったのが懐かしい……。
 親潮の実装で、残すは5番艦の早潮、6番艦の夏潮だけになった。前年2015年の秋には嵐と萩風が実装されていて、2013、14年よりはペースが落ちているものの、1、2年内には陽炎型姉妹全員が揃うだろうと期待していた。
 ──あれから、6年が経つ。

 待つのは苦手だ。いつまで待てば良いのかわからない類の待ちは特に。
 時間がわかっているものはまだ良い。2時間後の待ち合わせなら、スマホのアラームでも掛けて近場で時間つぶしできる。3ヶ月後のライブならチケットを取って宿と交通機関の予約さえしてしまえば安心。来年の予定だって手帳に書いておけば、一旦忘れておいて近くなってから思い出せる。
 しかし、期限不明の待ちは違う。(そのあたり感じ方は人それぞれだと思うけれど、私にとっては別物だ。)今すぐ来るかもしれないという緊張をし続けたまま長い時間待つことは、随分と精神を消耗させる。今かと期待して、裏切られる、という状況をずっと続けていくことになるからだと思う。

 早潮や夏潮が来るのは明日かもしれないし、来年かもしれなかった。明日ではないにしても次のイベントで実装させる可能性は常にあった。陽炎型が好きなだけにずっと頭の隅にそのことが引っかかっていた。イベントの告知が出ないかと日々運営のツイッターを確認し、イベント時期になると新艦娘の数を予想し、実装艦娘が判明しては落胆する、ということをおおよそ四半期ごとに繰り返していた。
 もちろん他にも好きな艦娘たちはいるし、単純にキャラが増えていくのは嬉しい。親潮より後に実装された中にも好きな娘はいる。待つのさえ当初は楽しかった。でも、少しずつ待つのが辛くなった。

 いつしか、新規実装艦たちにもやもやとした気持ちを抱くようになった。海外艦、海防艦、好きだったはずの夕雲型にさえ。同じ頃にイベントの難化・複雑化と長期化が進んだことや、艦これ外でのストレス増加、そうした複数のマイナス要因もあって、ついに私は艦これから距離を置いた。艦娘たちを嫌いになってまで続けるものではないと思ったし、楽しくなくなったのなら離れるのが普通だろうと考えた。

 とはいえ、提督業に勤しんだりリアイベに行ったりしているフォロワー諸兄姉のことは「楽しそうだなあ」とにこにこしながら観測していたし、たまには運営ツイッターも見ていた。タイムラインに流れてくるイラストや漫画も楽しく拝見させて頂いていた。
 いつか鎮守府に戻ることがあれば、早潮か夏潮が来るとき、それか艦これのサービス終了告知が出るときだろうとはぼんやり思っていた。実装を諦め、期待することをやめていたつもりでいつつ、どこかで一縷の望みを捨てきれないでもいた。

 その日は、突然来た、ように思う。タイムラインからコトを察知して運営ツイッターを見に行った。果たして、陽炎型の新艦娘を実装する、との告知があった。
 ああそうか、来るのか。初動の感想はそんなもので、冷静に受け止められるものだな、なんて冷めた自己分析をしていた。二度見、いや五度見くらいはしたけれど(考えてみればこの時点で冷静ではないな?)、五体投地することも、喜びの舞も、のたうち回ることも、なかった。
 後から考えてみれば、どうも現実に頭がついて行っていなかっただけのような気もする。実際のところ今もまだ、現実味を持って受け止めることはできていない。

 けれどもコトは重大だ。少し前に冬月の立ち絵を見て「戻ってもいいかな」と思い始めていたこともあって、もはや艦これへログインするのに躊躇はなかった。
 ひとつわかっていたことがある。資源が足りない。燃料、弾薬、鉄、ボーキ、バケツ。とかくイベントは大量の資源を消費する。2万で十分なのよ、との言は、初期はさておき今となってはもはや通用しない。欲しい娘がドロップ艦ならば尚更。甲難度はやめて丙難度くらいにするにしても、資源枯渇は致命的。資源回収のために、張り付きで短時間の遠征を回すことはできないにしても東京急行くらいはと考えた。善は急げ。そうして睦月型と神風型の皆様は遥か彼方南方の海へと向かってくれた。


 久々にログインしたら、母港では変わらず龍田さんが待っていてくれて、艦隊の皆も変わらず居てくれた。システム上当然ではあるんだろうけれど、随分待たせてしまった申し訳なさと、変わらず待っていてくれたことへの感謝と、懐かしい気持ちがして、嬉しかった。
 かつてのようにはできないけれど、東京急行を回しつつ、時折演習や少しの出撃をしている。イベントも含め、自分のペースで進めていこうと思う。甲勲章は無くても、楽しいペースでできたらいい。

 そういうわけで、このメンテが明けると陽炎型姉妹が増えるはず。ラエだと聞いたから早潮の方だろうか。正直、いなかった期間が長すぎて慣れてしまったから、未だに妄想のような気もするし実感も湧かないけれど。邂逅のとき私は泣くのか笑うのか、はたまた真顔なのか、今はまだわからないが、ひとまずはあと少し、待つことにしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?