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エサに群がる鳩だった


土砂降りのち小雨のち土砂降りのち、曇り。その日、太陽はほぼ姿を見せなかった。山と湖のしんと冷えた空気。

フジロックもライジングサンも例年の「雨、寒い、泥」という悪天候ジンクスを覆すピーカン晴れの灼熱だったから少し油断していたのかもしれない。
もう今年のフェスは「雨降って寒い」なんてことは無いだろうと勝手に思ってしまったのだろう、軽装で来てしまった。山中湖に着いた途端にゴアテックスに身を包み雨にそぼ濡れて震えていた。着る物はもうない。これで夜まで過ごすしかないのか…と絶望に苛まれながらぬかるみを慎重に歩く。
更にバスが渋滞にどハマりして想定の数時間も遅れて会場に到着したのですっかり意気消沈してしまい、少しでも自分を元気づけようと、着いた途端にテントに入り肉盛りカレーを食べた。ししゃもちゃんは観たかった。。


食べ終ってVaundyを観に行く、というかもう会場がパンパンなので近くで観られるはずもなく、観るというより聴く。
もともとラブシャ会場の山中湖交流プラザきららはそこまで広いところじゃないので、久しぶりに「人の多いフェスに来た(人がコロナ禍前のようだ!byムスカ)」と思う。フジロックもライジングサンも人は多かったけど、どちらもとにかく会場が激しく広いので混んでるとは全く思わなかったから。
会場内を延々と歩くこともなく移動もスムーズでとにかくロケーションが最高、山も湖も見えて空気が美味しい。だからラブシャはとても好きなフェスの1つだった、その浮かれ気分だけ覚えていて、軽い気持ちで来てしまったのですっかり忘れていたのだ、大抵山の天気は変わりやすくて、すぐに雨が降って寒くなってぬかるんで悲惨なことになるということを。
思い出してみると良い、ラブシャでのレインウェア着用率の高さを。雨がしとしと降りしきる中で聴いたエブエブを、やっと雨が止んで聴けたニワカ雨ニモ負ケズを、小雨舞う中で聴いたひとつ、さよならを。泣いたり笑ったりしたラブシャの記憶の中では大抵雨が降っていた。というか泣いてる方が多かったかもしれない。いま想い出して、また泣けてきた。


富士山の見えるステージでは過去最大の集客人数となったらしい今を輝くバンドがキラッキラの音を出している。その後も森のほうまで移動する人は少ないだろう。


今日の時間割では完全に動員は見込めない。そう思ってはいたけれど、予想以上にまばらな人に心拍数が上がってしまう。不穏な脈拍。


そんな不安をよそに、激重Giftedからスタート。神様が匙投げた明らかに薹の立った世界。まだ続いていて、これからも足元に重く引きずるように付き纏う、世界の秩序を歪めていくものたち。その深刻さをよそに虚空へと向かって狂おしく燃え上がる、フェス。
心も身体も芯からしんと冷えて頭が覚めていく。


と、その後は夏の名曲、懐かシングル連発のムチとアメの選曲。眩しくて胸がキュッとなって目の前の演奏をよそに頭の中の景色の広がりに飛びそうになるくらい。さすが1兆曲の大ヒットナンバー持ってるだけ、あるわ…


西川さんのギター絶好調、嬉し楽しくて運指やスライドバーを華麗に操る手元をずっと凝視していた。西川さんの音色、空気感を軽く含んで音色に吹き込んだり、空気感を作り出すための引き算や足し算の妙なる重なり、一度として同じ音が出ない、いつでもその場限りの、そこにいた人だけが聴ける奇跡の音色…この音を聴くために来たといっても過言ではない、深く染み入る心地良さ。
風待ちイントロのスライドバーの西川さんギターの音色がとても好き…
田中さんの歌声も絶好調に艶があって軽やかに熱を帯び、森も山も湖もどこまでも駈けていく伸びやかさ。


と思いきやねずみ浄土、ギリギリまで引き算をした1番難しいシンプルなリズム合わせで痺れさしてくる。あぁ、やっぱり聴きに来て良かった。心底そう思って「好き嫌いはよせ」と嗜められて締まったあと、そろそろラストの時間かなと寂しい気持ちで名残惜しく拍手をした瞬間に、来た。


ひどく聴き慣れた、でも聴き慣れないイントロのリフ。一瞬理解が出来ず「え、何の曲だこれは?」とリフのフレーズに合わせて頭の中で「???」がリフレインする。いや、もう分かっているけれど、本当か???歌い出すまで分からない、ぞ???





「鳩が群がってら エサでもやろうかねえ」



いや、鳩じゃん!!!!



GRAPEVINE「鳩」、太古のアルバムの締め曲なんて、フェスでやるんか…いやそれをやるのがバインなのである。いやバインでなくたって、そもそもこの曲、フェスに限らずワンマンも含めライブで演奏されるのは10年ぶりくらいなのでは、、その伝説の「鳩」を、何故今、フェスで、演る??ハァ???わけわからん、でも最高!

※正確には8年ぶりらしい


びっくり驚いて固まってしまった後、腹の底から湧き出る楽しさに笑い転げてしまった。バイン、やるなあ!そしてその勢いで拳を突き上げてしまう。
「お前らが皆ひとつになろうが どうなるもんじゃねえ」およそ鳩という平和なイメージに似つかわしくない反抗心剥き出しのシャウト曲。田中さんのシャウト、色気ダダ漏れで最高にかっこいい。「ガキがオルタナティブ」「大人はフリーなんだ」風刺に風刺を重ねて何を言いたいのかは行間を読むほかない、最高にバインらしい曲。田中さんの空耳を誘う歌い方も最高で「大人はフリー」が「後の祭り」に聞こえる歌い方、田中さんしか出来ない。
ぶち上がって昇天している間に颯爽と気持ちよくシャウトしきって、鳩が終わり、わたしの夏も終わってしまった。良い夏だった。





さて「鳩」のシャウトにぶち上がって楽しくなり過ぎて全部飛んでしまったが、その頭の裏で考えている。いきなり脈絡なく「鳩」をぶち込んでくるわけがない。この集客を見込んでの選曲に違いない。そうやって頭が勝手に推察を始める。


何度も言うのは避けるけど、鳩が群がってるくらい平和な集客数なことは想定済みだったはずで、だからこその、その群がってきた鳩にエサでもやってくれたのである。


そう、わたしたちは、エサに群がる鳩だった。


皆ひとつになろうが、どうなるもんじゃないくらいの、エサに群がる鳩だった。後の祭りである。




ちなみに私はいつも「後の祭り」の歌詞のところが「鳩の末裔」に聞こえてしょうがないのだけど、本当に「鳩の末裔」って歌ってません?鳩の末裔が何なのかは全くの謎だけど…鳩の末裔ってそもそも鳥なの?トリなの?
まあとにかく、バインが夏の大トリだったことはこの夏いちばんの事実であったのだ。



2022.08.28 SWEET LOVE SHOWER2022
GRAPEVINE

Gifted
ナツノヒカリ
風待ち
スロウ
ねずみ浄土


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