ミュージカル手紙2022 観劇感想

全公演が終了したということでこれを書いております。

Twitterでも良かったんだけどすごく長文になりそうだからこっちの方がいいかと思い初noteです。素人感想なので暖かい目で読んでもらえればと思います。

1回目は2階で全体を観て、原作を読み、2回目は1階で表情とか歌の細かい部分を観ました。

しんどい作品は心を削られるのであまり得意ではないのですが、今回は途中のしんどさはあれど最後はスッキリした気持ちで終われたのが個人的にびっくり。もっと沈んで帰るかと思ったけど、「いや〜良い作品見たな〜!」という気持ちでした。(目は真っ赤だけど)

何が1番良かったというとミュージカル独自の結末。原作の終わり方は直貴が最後どんな気持ちで声が出なかったのかが読者に委ねられている気がした。でもミュージカルはあの苦しい表情、剛志からもらったギター、その二つで苦しいながらもプラスの気持ちもあったんだな、兄の事が全部全部嫌になった訳じゃないんだなって感じられたから救いがあった。逆に剛志としても最後に直貴のあの表情を見れたから辛いながらもちゃんと踏ん切りがついたのかなって。直貴に背を向けて、他の役者と同じ列に並び、直貴と別の方向に泣きながら歩いていく。

もう直貴と並ぶことはできない。向き合うこともできない。

きっと最後にあの顔を見なかったらその後も「なぜ」「なにが間違いだった」「どうしたら」って答えのない自問をしていたかもしれない。だからあの兄弟の決別にはあのシーンが必要不可欠だなと感じました。

推しがspiさんなので剛志メインで書くけども、1回目を観て普通にすんなり自然と観れたんですよ。

で、原作を読むとなるほど、パンフレットでspiさんが言っていた通りほとんどが「直貴のフィルター」だなと。それをあそこまでリアルに落とし込んだのはすごいと思いました。

やっぱり観てる側としては直貴に共感してしまうのでたまに剛志にイラっとしてしまう。のんびり獄中生活しやがって。こっちの身にもなってみろと。なんで栗なんて…なんでテレビなんて…そんなことしてなければ殺しなんかせずに逃げられただろうに。

正直原作未読で観た栗とテレビのシーンには素で「バカか!?」って思ってしまった(笑) でも観劇から数日後にとあることがあって昔の自分を思い出した。

剛志は私だったし、私は剛志だった。

詳細は省くけども、私も剛志と同じぐらい馬鹿だった。でも観劇している間はそんなこと微塵も思い出さなくて、きっとこれが”時の流れ”ってやつなんだなって思った。剛志と私と一体何が違うんだろう、一緒じゃないのか。獄中生活となった剛志と今でもなんとか働けている私。結果が違ったのは周りの人達のおかげ。だから私は剛志と何も変わらないのだと思う。周りに助けられた。運がよかった。ただそれだけ。

社長の言っていた「繋がりの糸を増やす」っていうのは本当に大事なこと。直貴には由実子がいたけど剛志にはいなかった。私にも頼れる人がいた、でも剛志にはいなかった。その違いが驚くほど大きい。それこそ人生を変えるほどに。

昔鬱になった頃は本当にしんどくて、休職したくて、でも医師にも親にも「時短でいいから働きなさい。世間と関わりなさい」って言われたんです。その時は「こんなに辛いのに!なんで休ませてくれないの!?私のことなんか分からないくせに!」って思ってた。でも今はあの時働き続けて良かったと思ってる。独りにならず他人と関わりを持ち続けるということの大切さを知ったから、だからこそ剛志は可哀想な人だと思った。頼れる人がいなくて、誰にも話せない気持ちは痛いほど分かる。お金に関することなんて特に隠してしまう。ああいう時は本当に周りなんか見えてなくて、衝動的に取った自分の行動が間違っていることなんか全く気づけなくて。

だから、剛志はあまりにも私だったから、悲しい、辛い、ではなく多分同情の気持ちを強く感じたのだと思う。だから最後に踏ん切りのついた剛志を見て「よかった」と思った。まだまだ辛い気持ちは残るけれど、出所したら自分と向き合って生きて欲しい。辛い決意をした直貴といつか肩を並べられるように。”時”っていうのは何よりも残酷だけど、何よりも優しいと思うから。

ここまでつらつらと書いたけど、原作だけだとそこまで多くは受け取れなかった。このミュージカルのおかげでここまで深く感じ取れたんだなと思っています。パンフレットのspiさんのインタビューを読んで、剛志を自分の中で掘り下げていって、なにをどうしたのかは分からないけれど、だからこそあの剛志が生まれたんだなと。

一旦剛志から離れます。直貴の気持ちは色んな人が共感できる、私もその1人でした。誰しも周りと自分との差別って感じることがると思うんですよね。あと周りに壁を作ってしまうことも。人生を諦めて世間がいけないんだと決めつける。特に負い目を感じながら生きている人間は。

直貴は由実子に出会えて本当によかった。由実子は原作よりミュージカルの方が好きかなぁ。純真さが全面に出てて「白!」って感じの女性。原作の方はちょっとストーカーっぽさもあったから(笑)2人が正面から戦ってるのに対して社長が「歩きやすい道に行っているだけじゃないのかい?」っていう台詞もすごく沁みた。自己犠牲ってとても正しい気もするけど独りよがりだったり、パートナーを道連れにしていたり、結局心がすり減っていく面もある。それができていたのは若さ故なのかもしれない。大人になると自分の心に対してどこまでが許容で妥協できて、どこからかは拒絶して自分を守るっていうのができるようになる気がする。

直貴が剛志との絶縁を決意できたのも心が大人になったからっていうのもあるかもしれない。事件が起こったのが18,心の中だけで絶縁し始めたのが20代半ばで、完全に絶縁を決意したのが30。すごく分かる!!!!!(笑)自分も結局人生の筋道というか「あ、こうやって生きていけばなんとかなるかなぁ」って思えたのが30ぐらいだったし、25ぐらいの自分を思い返すと本当に周りが見えてなかった。そういう自分と直貴がリンクしたから、なんというか「そうなっちゃうのしゃーない!」って。(自分の境遇より直貴の方が遥かに辛いんだけど)

だから直貴が剛志との絶縁を決意したのは「辛かったろうによくやった、これからは自分の人生を歩んでいってね」っていう気持ちだった。直貴自身「もっと早く言えてれば…」って言ってたけど、やっぱり12年かかったんだと思う。だからこれでよかったんだな、って思ったらすごくスッキリしたんです。((やっと冒頭に繋がった))

個人的にはハピエン厨なので、2人が70歳過ぎたぐらいでなにかの縁で再開して和解、そこからまた少しだけやりとりをしてほしいなぁって気持ちもあります。でもまぁそれは想像だけでいいかな。2022年現在直貴は41歳?まだまだ先の話だもんね。

誰かが言ってたけど「ミュージカルは歌で時間を飛ばせる」っていうのがぴたりとハマった作品だったので、ミュージカル好きとしてはそういう面でも本当に観れてよかったです。相反する気持ち、建前と本音、それが見事に音楽と歌で表現されててよかった…特に日本人なんて常に建前と本音の生き物な訳で…初演再演のも見たかったなぁと思うけど、自分からはこういう作品は観に行かないので、出逢わせてくれたspiさんに感謝です。

唐突に話は変わるんですけど、今回のパンフレットで藤田さんに関しての話が多くて、読んでいるうちに「そんな素晴らしい演出家がこの世にいるんだ…」って思ったんですよね、演出に関しては何も分からないのですが……

以前観たvioletも本当に素晴らしかったし、役者の皆さんからああやって書かれている藤田さんは本当にすごい人なんだなぁ〜とすごい素人丸出しな感想を抱いた訳です。

私もまだまだ未熟だけど、できるだけ独りよがりにならずに…ううん、独りよがりな自分と向き合って、不器用ながらに地に足つけて生きていきたい。周りと関わりを持ちたいと思っている陰キャコミュ障なのでなかなか道は険しいですが、もう5年もしたらまたきっと変わるだろうし。焦らずゆっくり楽しく生きていこうと思います。

この作品に出会えてよかった!この作品を観た人が1人でも多くなにかを感じ取ってくれてたらいいなと思います。

千秋楽まで無事に駆け抜けてくれたこと、本当に感謝です。お疲れ様でした。

<終>

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