BTSと世界にとっての2021年

コロナ禍の不自由を自由に駆け巡った新時代のボーイ・バンド、BTS。

いつの時代も、人々の衝動を突き動かし、時には盾となり、またある時には傷ついた心を癒すアンセムがある。従前のボーイ・バンドは楽器を掻き鳴らし、感情を剥き出しにシンガロングする姿で大衆を熱狂させた。
BTSの7人は爽やかで透明感のあるハイトーンボイスやメッセージ性の強いラップと、息の揃ったハイクオリティなダンスでファンを魅了する。
何より特筆すべきは英語圏出身のメンバーはおらず、全員が韓国(しかもソウルではない、いわゆる田舎を背景に持った)出身という、世界と闘うには大きなビハインドを背負っている点にあると考える。

彼らについては楽曲面だけでなくプロモーション面なども広く言及されているが、およそ2年に及ぶコロナ禍での躍進で今まで以上に多くのファン(ARMY)を獲得した。この、おそらく世界一強固で柔軟なファンダム・ARMYとともに7人は世界に名を馳せるアーティストへと進化を遂げた。

今年9月、第76回国連総会で行われたSDGsの関連イベントにてBTSはスピーチを行った。
3度目となるBTSの国連での演説には一部批判的な声もあるが、届けたい世代へのメッセンジャーとしては一定の効果をあげたことだろう。国連会議室で撮影された「Permission to Dance」はYouTubeで配信され多くの関心を集めた。楽曲クレジットにはエド・シーランも名を連ねた聞き馴染みのいい爽やかなサウンドが魅力的で、一聴するとどこか懐かしさすら感じる王道のサマーソングだ。20年スマッシュヒットとなった「Dynamite」三部作のラストとも呼ばれている今作でも英語詞にチャレンジ。今回は全員が歌唱に徹し、世代を問わずリスナーがシンガロングできる構成となっている。

ついで世界的バンド・Coldplayとのコラボ楽曲、「My Universe」をリリース。
リモートでも楽曲制作ができる現代で、BTSとの楽曲制作のためにクリス・マーティンは極秘で渡韓。短くない隔離期間をこなし、彼らとのコラボに最大級の敬意を表した。きらやかなシンセと美しい歌声が融合し、スペイシーな空間を幾重にも増幅させる。それぞれの人種や国籍を超越した調和、世界に国境や区別はないというシンプルかつ壮大なメッセージが余すことなく盛り込まれてる。

そして最近AMAs 3冠を果たした「Butter」では清々しいほど鮮やかなイエローの衣装をまとい歌い踊る。
欧米を中心に巻き起こったBLM運動でもいち早く立場を表明したBTSだが、本作はアジアンヘイトにもしっかりと向き合った楽曲であると、リーダーのRMはVlive(動画配信サービス)で明言している。
ニュートロ的なポップソングに英語詞が小気味よく踊る、非常にタイトな楽曲だ。まさに”smooth like butter”。
バターがあつあつのトーストの上でじんわりと溶け染み込んでいくように、人々は秘められたメッセージに気づかぬうちに口ずさんで、軽やかにステップを踏んでダンスをマネしている。

ともすれば薄寒いくらい直球で優等生的なメッセージを、彼らは真正面から背負っている。英語圏内の消費一辺倒なエンターテイメントの世界で、ある種のカウンターとして台頭したような気風も見られたが、BTSの由来ともなった「防弾少年団(若者に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く)」、この姿勢を全員が揺らがないポリシーとして持ち続けたことがメインストリームを大きく揺るがした。
彼ら自身が多くの偏見や抑圧と闘っていく中で、自身の心に芽生えた「LOVE MYSELF」を実行したことが国境や人種をこえ、賛同や共感を呼んだ。
そして何よりARMYとともに作り上げた相互的ユートピアを守っていくため、彼らはBTS=防弾少年団として、人々を癒し、守り、そして励まされながら成長していくことだろう。
2021年、BTSのポップスターたる堂々とした姿勢にはコロナ禍で日々変容するニューヒーロー像の輪郭がぼんやりと見える。

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