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ビジュアルノベル『イハナシの魔女』を紹介したい(ネタバレなし)


初めに

セカイ系のボーイミーツガールと言われた時、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。エヴァ、ハルヒ、最終兵器彼女、ペルソナ。セカイ系と言われる作品はたくさんあるが、その定義について考えたことはあるだろうか。

僕はなかった。いつのまにか世に浸透していたセカイ系を、この手の作品多いよなーと何も考えず享受していたにすぎない。だがそれでもなんとなーく共通しているイメージとしては以下のようなものになると思われる。

・主人公とヒロイン、ひいては彼らの住む町などの共同体が物語の中心となる。
・それより大きな社会がほとんど描かれることなく、地球全体の危機といった問題が発生する。

この定義は恐らく正しい。
正しいが、基本構造にしか言及していない。
カレーライスに対する福神漬け、おでんに対する和カラシ、あるいは阿万音鈴羽に対するスパッツ。いやスパッツは基本構造か。
とにかく、基本的な構造はそうなんだけど+α加えるとよりよくなるよねという要素がセカイ系ボーイミーツガールには、ある。

そうだ、その通り、察しがいいじゃないか。これだからおめえらは最高だぜ。ではご唱和頂こう。そう……

夏×田舎である

※所説あり
※たぶんこれ個人的な好み

夏がある、田舎がある。イハナシの魔女にはセカイ系ボーイミーツガールのすべてがある


前置きが長くなってしまった。
イハナシの魔女にはセカイ系ボーイミーツガールのすべてがある、としたのはなぜなのか。ここで公式サイトに掲載されている紹介文を引用しよう。

幼い頃に両親を亡くした「西銘光」は、高校一年生の春、育ての親である叔母から祖父の家で暮らすよう言い渡される。1人フェリーに乗って向かったのは人口1000人にも満たない沖縄の離島「渡夜時島」。
不安を胸に祖父の家を訪ねるも、祖父は海外へ移住してしまっていた。
事情を尋ねるべく叔母に連絡を取るが音信不通。
転校先の高校にも西銘光という生徒は在籍していないと告げられる。
光は叔母一家に捨てられたのだ。
途方に暮れた彼は夜のサトウキビ畑をさまよう。
そこで不思議な衣装に身を包んだ少女「リルゥ」に出会った。
自活力皆無の元高校一年生の光。
日本の常識をまるで介さないリルゥ。
2人は協力し合って小さな島で暮らしていく。

しかし、リルゥには渡夜時島へとやって来た目的があり……。

イハナシの魔女 公式サイト

田舎!!田舎といえば離島!!
夏!!夏と言えば沖縄!!


心に傷を負った主人公と不思議系ヒロイン。二人の関わり合いはやがてセカイを巻き込む大事件に発展していく……。
このセカイ系の基本がカレーライスとして、上に乗っける福神漬けを徹底的に作りこんでやろうという覚悟と気概を感じるのがこの作品なのだ。
ただの福神漬けでは駄目。野菜をすべて契約農家から仕入れて有機野菜にしてやるぜ!!といった覚悟で、田舎を扱うならば離島に!夏を描くならば沖縄で!と潔いまでの王道を貫いている。

港。山と海(or川)は田舎の基本だ
沖縄らしい住宅街
主人公たちが暮らす沖縄式の古民家



うだるような暑気。青空高くそびえる入道雲と耳を震わせる蝉の声。揺れる陽炎。繁茂した草木。時間がゆっくりと流れていく古びた住宅街。実際に体験したことがなくとも何故か我々日本人の魂に刻まれている幻想の夏。
実写を加工した背景の力も相まって、この作品かは我々現代人が求めてやまない幻想の夏感を十二分に味わうことができる。

そんなイハナシの魔女だが、王道を突き進む一方でオリジナリティを失ってもいない。ファンタジー的要素である『魔法』と琉球の土着信仰が濃密に絡み合うストーリー。色を添える魅力的なキャラクター達。
王道なのに個性もある。
そして何よりも僕が素晴らしいと感じたのが、クリアまでの時間とそれをもたらした無駄のないストーリーである。

一本道のストーリー。クリアまでは10時間前後


短い、そう短いのである。
ビジュアルノベルに持つ印象とは大きくかけ離れたクリア時間ではないだろうか。本作はボイス付きなのだがボイスをゆっくり聞きながらプレイしたとしてもこの程度である。

筆者は同じくビジュアルノベルのSTEINS;GATEが大好きなのだが、あちらのクリア時間は30時間~40時間ほど。およそ1/3でありながらクリアした時の喪失感と涙の量たるや、STEINS;GATEに比肩していた。
シュタゲをクリアした時と同じくしばし放心し、その後半分泣きながら二次創作を漁ろうとしたのだから間違いない。1/3の文章量でこの感動を与えてきたゲームを、僕は他に知らない。

なお個人製作のゲームであり、単純な売り上げでは比較にもならないため、二次創作は皆無だった。残り半分も泣いた。おいおい泣いた。無いのならもう自分で書こうかな……となる挙動までシュタゲの時と同じである。

閑話休題。
この文章量でなぜこれほどの感動を連れてくるのか。それは本作が一切の無駄を省かれて作られているからだろう。

この辺りはクリア後に開放される『append』(元々別売りされていたものをswitch、PS、XBOXに移植した際に追加されたものなのでsteam版には付属していない)に記載されているが、本筋を描く上で少しでも無駄であると判断した描写は徹底的に切り捨てたそうだ。
寄り道がない。無駄なエピソードが無い。設定上存在していた本筋に関係はないけど面白いエピソードも闇に葬り、王道のボーイミーツガールを描き切ることに終始した。

故の、コストパフォーマンスの良すぎる感動、なのである。

その他コミカルとシリアスのバランス、フリー音源ながら場面にあったBGM、沖縄の丁寧な風俗描写(実際に半年ほど沖縄に住んでいた筆者が言うのだから間違いない)等々、良かった点は枚挙にいとまがないが、この辺りは実際にプレイしてみて確かめてほしい。

現在switch、PS4、PS5でセールを行っており、append(短編小説+設定資料集のような物。紙媒体で1000円、電子で800円)込々で2000円で購入できる。

BOOTHで体験版もプレイできるため、気になった方はまず体験版から。
世界観が好きだ、ヒロインが可愛い、ファッキンホットという現実的な不愉快を取り除いたメリット純度100の夏を味わいたい等々、気に入る箇所が一つでもあればそのまま一息にクリアまでいける文章量なので、僕を信じて財布から2000円を取り出してくれ。

なおappendは付いていないがsteam版も2000円だ。無事完走してappendも見たい!!とノールック財布ひっ掴みしたとしても2800円だ。昼飯を2回抜けばいけるいける。

え? 何? 弁当派? 自炊で節約してる?
それは知らん。8食抜け。

最後に作中のコミカルシーンで好きだったものを掲載したいと思う。
島一番の美少女を自称するアカリちゃんが主人公とリルゥに〇〇(公式で伏字なので則る)になるための手伝いを頼んだ後のシーンなのだが……

デェン!!と突如出現する謎UI

ノベルゲーで突然アイマスを始めんじゃねえ。言動がイカれててマジでおもしれー女だよこいつ。まあ推しは順当にリルゥですけど。

おわり。



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