ある男性の目
2月頃、クライアントが開催したデジタルアートのWSを受講する為、iPadを買った。そこから今までに、4回ほど絵を描いた。
デザイナーでもありイラストレーターでもある親しい男性に、
「絵って難しいものね。イメージ通りに描けなくて才能のなさを痛感しちゃう」と話したら、叱られた。
あほですか。いきなりイメージを描こうとするからです。デッサンもできずにいきなりイメージを描こうとするなんて。全てはデッサンなんです。来る日も来る日もデッサンなんです。
デッサンでは「輪郭線」は描きません。ものには輪郭なんて無いからです。
空間と物体の境目があるだけ。
林檎を描こうと思ったら、林檎だけ描くことは出来ません。
林檎と空気の境目を描かなければいけないし、林檎の乗っている台を書かなければいけないし、その境目に、輪郭線なんて無いのです。
「さあ、ここまで聞いたら、答えてください。デッサンでは何を描くと思いますか?」
「光と、影」
その通りです。僕は毎日毎日、絵を学ぶ教室で「空気を描け」と言われました。空気を描くと言うことは光を描くこと。影を書くこと。空気と物体の境目を光と影で描くと言うことです。
私は恥じ入ったが、促されるまま、私の描いたキャンドルの絵を2枚見せた。
彼の反応は意外なものだった。
「100点満点で100万点です」
「鼻で笑われると思ったわ」
「めちゃくちゃ雰囲気あっていいじゃないですか。貴女は過去に、炎を興味深く観察したことがあり、蝋が溶ける様子に感動したことがある。それが伝わります。観察できていること、何に感動したかが伝わること、それだけで100点です。絵ってね、描く力より見る力、観察力が全てなんですよ。
そして何より貴女が、【どうしても自分のその手で炎を表現してみたい!】と思った情熱が伝わります。その情熱で100万点です」
「うわぁお」
気をよくした私は、次に金魚を描いた。
光と影の付け方が変だと指摘されるものだと思っていたが、
今度も彼の評価は意外なものだった。
「天才ですね!しかしダメです」
「天才も分からないし、ダメもわからないわ」
「初めて金魚を描いて、これだけ描ける。天才です」
「光と影が変だって言われるかと思ってた」
「そんなのはどうでもいいです。だって好きなように描けるのが絵じゃないですか。とにかく技術点は高いです」
「素直に嬉しい!」
「しかし、絵としてはだめです。もし貴女がちゃんと絵を学んだことがあったなら、こんな構図にはならないはずです。この絵は、金魚、水草、水面、影、というそれぞれのオブジェクトはちゃんと描けています。でもそれだけです。貴女が何を描きたかったのか伝わってきません。貴女が何に感動したのか伝わってきません。もし水面の煌めきを描きたいならば、それを描くために金魚はここにいないとだめだとか、もし金魚を見せたいならば、そのために水草はここになければいけないとか、そういう思慮がどこにも見えません。ただ、金魚を描いて水草を描いて水を表現してみただけ。貴女の感動と情熱がどこにも見えない」
本当にその通りで驚いた。
炎と蝋を表現したい情熱で描いたことも、
とにかく金魚を上手く描きたかっただけってことも。
そして私たちは、いつものセリフを言い合う。
「何か一つを見れば全てがわかる。絵に限ったことじゃないわよね」
「そうですよ。全てにおいて言えることです」
「あなたの仕事を見ればあなたがわかる」
「貴女の言葉を聞けば貴女がわかる」
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