Novelber2019:06 当日券

カウンセリングの当日券を取ろうと思ったらよりによって1限しか開いておらず、当然1限TAとバッティングし、状況を説明したらものすごい剣幕で他人に怒鳴り散らす声が、スマホの向こうから聞こえてきた。
有り体に言うと怒られている。すごく。ものすごく。TAについてはとっさに同級生にバトンタッチすることで事なきを得た(財布的には事なきを得ていないが)。

『西村くんなんでそんなになるまで放っておいた?殺すぞ?』
「そんなに」
『そんなにだよ!めちゃくちゃそんなにだ!』

怒られまくっている。まだ現地にたどり着いていないというか、時間も6限のあとに強引にねじ込まれたのに未だに怒られている。理不尽か?

『それは確実にアレだよ、夢系の怪異が追っかけてる』
「ふんわりしすぎてませんか二階堂先生」
『私は夢専じゃないんだ!肉体!カウンセリングはついで!』
「医者~~~~~~~!!」

そろそろ実験なんで切ります、というと、電話の相手は大変あっさりと電話を切った。
怪異の相手は、言ってしまえば負担が大きい。紫筑大学のマイナスポイントのひとつとして、『学生に相手をさせていること』が上がるくらいには、その負担は大きい。
人ではないもの。まだ人の形をしているもの。命乞いをしてくるもの。どうせならと派手に死んでいくもの。それらを狩るためのマインドセットをされていない学生が、事件を起こした事例はいくつもある。だが、そのためにその人間の未来を怪異狩りだけに向けていいものか、というのが、紫筑の理念である。学長兼第四学群長と、実務班班長のツートップが牽引し、力を適切に取り回している。そう主張しているし、されている。
故にこういったカウンセリングへの門戸は広く、時には一般学部の授業より優先してもよい。そのために働く人間たちがいる。
――今回は完全にかなり自業自得というか、あとでいいか、を繰り返した結果めちゃくちゃに怒鳴られており、まあつまり自業自得なのだが……。

「夢系の怪異かあ」

幸い西村は相当神経が図太い方で、もし大日向深知が実務班班長の立場から退くことになったら、彼が次の班長に使命されるのではないか(――それでも複数人形式になるだろうとは言われている)とすら言われている。大日向深知はなんなのだ、と聞かれたら、狂人だ、と答えるしかない。天才は得てして狂人と紙一重であり、すでに五年実務班の班長を一人で努めている大日向深知は、精神が大変屈強な狂人だ。
パッと思いつく限りで夢系に詳しい人間が思いつかない。暇な時間に大日向を捕まえよう、と思いながら、西村は自転車を走らせた。

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