Novelber2019:10 私は信号

いいと言われるまで、【ねじれ鈴】は動いてはいけない。
いいと言われたら、どこまでも派手にやっていい。先輩が誘導してくれるので。
たとえ、途中で正気を失っても。

「……うんおおよそ分かったけど、パラレルラインまで俺が動かすの?マジで?」
「パラレル“ライン”だぞ、やってやれないことはなかろうよ」
「クソ」
「ボクの采配は基本的に完璧で天才だ。穴を埋めるためにお前たちを組ませてるんだからな」

それにしたって信号機じゃねえんだぞ、と思う。神経回路みたいだ。1か0かで判断を決める信号機。
今の所の相棒である宮城野陽華は、大人しい見た目とは完全に反比例する過激な能力を持っている。【捻じくれた深淵の鈴】(パラレルラインアビスリリー)と名付けられた能力は、局所的な世界線の操作能力だ。あらゆるパラレルワールドの自分を瞬間的に集合させ、そして全員で同じ箇所を叩く。一人の力は僅かだったとしても、幾千幾万では済まない単位の宮城野陽華が同じ場所を、叩く。雨垂れが石やコンクリートを少しずつ削り取るのと同じことを、ごく一瞬で起こすのだ。

「……しかしさあ、それでもあの……何?言うほどランク高くないのね、ド派手な割に」
「そりゃあそうさ。制御できないものはゴミだ」

能力は制御を伴ってこそだ。そう言う隣の人間が、一番制御できない能力を持っている。西村は渋い顔をした。

「そういうお前のは……」
「ボクか?ボクは完全に完璧だ。ボクには何の被害もないからな」

大日向深知は最強大天才であり、そして破壊の天災であり、大発見を恵むものだ。
大日向深知は最強に幸運で、そしてはちゃめちゃに運が悪い。幸運と悪運が重なると、なんてこともないように。大日向はその災禍を回避する。周りにどれだけの被害が及んでいようと、彼女は無傷だ。リスクに等しくリターンを与える【死だけではなく】(ノットオンリーデス)は、そのために実験室への同行を求められたりする。たいてい代わりに高い実験機器を破壊して戻ってくるのだが、それで大層な賞を得ている人間もいるのだから、大したものだ。
まだ、イエスかノーか、簡単な信号で制御できる方がマシなように思う。

「いずれ完全となったものが残る。それだけのことだ。我らが紫筑が学校の体を取っている意味はそこにある」

何か特別なことができることは、この世界では別に不思議でもなんともない。指を押し付けるだけでタバコに火がつけられる、ケーブルの断線箇所を触っただけで判断できる、そうした小さな能力を持っている人は、どこにでもいる。
時折異常に膨れ上がった人間が現れて、それをこの大学が拾い上げているだけ。社会に出ることを許されれば、道路を渡らせて元の場所に帰すだけだ。
――そう、帰れない人間が語っている。

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