Novelber2019:13 あの病院

保健管理センターから叩き出され、西村は渋い顔をした。
いつも世話になっている二階堂医師は今日は残念ながら大学病院にいるので、と叩き出されたというか、遠回しに今からチャリを飛ばして向こうに行け、と言われたのだ。
学内の保健管理センター(――まあいわゆる病院のようなものだ)は、通常の生徒も当然利用する。そして学生に優しいお値段なので、混む。だから今回はちゃんと予約入れてんだろうがよ。
まあ仕方ない。医者だって本来の職場は病院だ。(二階堂に至っては学生の方が話が通じるからまだ楽だねなどと宣っていたような気がしたが)
時間を確認しようと思って携帯を見ると、なかなか珍しい相手から連絡が入っていた。

『宮城野です。緊急にチューニングが必要になったということなので、二階堂先生をお借りしています。申し訳ありませんが、予約の分は大学病院で見るそうなので、そちらに来てくださると助かるそうです』

先に携帯を見るべきだった、と思いつつ、自転車に跨った。

本学よりはずっと駅寄りの、さながら大学の入口と言わんばかりの位置に大学病院はある。これは当然、一般利用も考慮されたことで、バスもここが終点のものが通っているし、意外と能力で困る人間も、多い。子供の加熱能力で火傷しただとか、逆に子供に凍傷を負わせてしまっただとか、割と枚挙にいとまがない。
その中でも突出した人間が、頻繁に能力を使用していればどうなるか。答えは簡単で、破滅だ。
拾われなかった種がもし育ち過ぎたら、刈り取る。そうなる前に拾い上げる。それが、紫筑大学の存在の意義だ。

「オーケー宮城野さん、今ちゃんと自分が認識できるかい?」
「……はい。宮城野陽華、きちんとここにあります。断言できます」
「オッケーオッケー。入りたての頃に比べたら戻ってくるのも早くなったね」

悪いことを考える人間というのはどこにでもいるもので、うまく能力者を言いくるめて上に立って、その力を悪用しようとした例もある。残念ながら大抵の場合、待っているのは滅びだ。適切に制御されない能力は確実な滅びを起こす。
例が極端だが、あの大日向深知の【死だけではなく】とて、きちんと制御された上での挙動なのだ。彼女が天才だの天災だのと持て囃されるのは、それをきちんと制御しきっているからだ。己には対象が決して向かない、という時点で、既に百点満点が取れている。

「そうでしょうか……」
「そうだとも。私が就いてからきっちり記録は取っているけど、多少ブレることはあってもだいたい一定だね。今後の問題は頻度かな」
「……」

俯く。決して病院にかかることがイコールで優秀ではないということには繋がらない。
それでも宮城野陽華は、病院が嫌いだった。

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