Novelber2019:03 焼き芋

異能学園都市、というと聞こえはいい。実情は、他の機関と路線を別にしながら張り合い、激しく凌ぎを削り合う国の認可機関だ。
この世界で能力者の台頭が激しく見られるようになったのはおよそ二十年ほど前で、故にまだ浅い学問だ。さながら怪異のような力を振り回し、人を殺す子供。何かに憑かれてでもいるのかのように、周りの人間を不幸にしていったサラリーマン。人間を怪異や神秘と同枠に扱うこともできず、かと言って人権を損なうこともできず、そこに現れたのが大日向深景(おおひなた-みかげ)だ。大日向深知の長兄である。
自身もまた能力者であることを公開し、そしてそれに違わぬ頭脳で以て国に乗り込み、あっという間に各種行政や法を整えさせた『能力者の始祖』。自称『真・最強大天才』……いやこの自称は今でも正気か?と何度も思うが、始祖ありきで今の紫筑があり、そしてそれを取り巻く他二つの機関が存在している。国直下のところと、もう一つ民間のところ……詳しくは忘れた。というか、自分のところで精一杯だ。
今平和にこうして芋を焼いているが、少し皮をめくれば勢力争いが山ほど出てくる。そもそも怪異と神秘とは何たるか、という話だが、大雑把に説明すると、人に害をなす人ではないものが怪異で、人に害をなさない人ではないものが神秘だ。だから種族そのものをまるごと怪異として認定することはできない。そもそも、この世界で隠れ住むように生きていた人間以外のものが、大日向深景による神秘大宣言により、我も我もと姿を現し始めているのが今だ。いずれ世界は、全てが人間で彩られた存在ではなくなるだろう。芋の大きさと形が絶対均一でないように、芋の中にも種類があるように、自然に人でないものが、人の中に存在していく――こんな難しいことを芋待ちながら考えとうなかった。

「おい西村」
「ヘイ村」
「ちょっと学食行ってバターパクっ……借りてこい」
「今明確に盗みを」
「借りてこい」

上司はこの調子だし(しかしこの上司も有能なのでなんとも言えない)、世界は変革していく。それだけの話だ。それだけで済む。はずなのに、それだけで済まそうとしない、認められない、そういう人間は多くて、――可能なら、全部ぶっ壊してしまえれば。

「っていうか多分うちの冷蔵庫にマーガリンありますけど……」
「それでも構わん!我々はお前の代わりにホクホクのイモを準備して待っていてやるからな!早くしろよ!」
「はーいズルしまーす!!」

【知識の坩堝・ご都合主義】を引き出す。
ヤモリの手足を今だけ添えて、西村は研究棟の壁を登り始めた。

「あいつまたアーカイブマスタリしとるんか。エレベーター使え、文明の利器だぞ」
「大日向ちゃんもよくやってるじゃないですか~。芋そろそろいいはずだよ」
「よし。宮城野!こっちに来い!」

別にズルでも何でもないのに。その思考がある限りで、永遠に等しくはならない。存在そのものがズルの権化とも言える大日向は、小さく、本当に小さくため息をついた。
煙に巻かれて、あっという間に分からなくなった。

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