Novelber2019:12 並行

同じテンポで歩く足音。歩幅だけが僅かに違う。
背の高さも違う。性別も違う。けれども、腹を出た日は同じ。西村一騎は双子だ。二卵性双生児の兄が西村一騎で、妹が今隣を歩いている西村一海。

「もうちょっと人に気遣った歩き方できません?そんなだから彼女ができない」
「同じこと彼氏にして返してやろうか?」
「今二次元に忙しくて別にいらないんスよね~~~~~」

隣のことは見もしない。別に見なくても分かる。180を超える長身の一騎に対して、女子にしては背が高い方ではあるが160程度の一海が並ぶと、顔も似ているせいか、兄妹とよく間違われる。大体あってはいるが。
生まれる前から一緒でした、まるっきり顔は一緒です……なんてことはなく、偶然腹の中に同じタイミングで居合わせただけの血の繋がっただけの兄妹だ。幼子を二人並行して育てるのはさぞ大変だったろうなとは思うが、西村一騎は家のことが嫌いだ。
まず父親。遊んでもらった記憶がぼんやりとあるだけの父親は、いつ頃だったかに唐突に失踪した。母親は母親で、それで気が狂ってしまったのか、もとから気が狂っていたのか知らないけれど、兄妹のことを激しく束縛するようになった。一海の携帯には大学院生にもなって何時に部屋に帰るの?という連絡が入るらしいが、理系の、しかも実験がある人間にそれを言うのは酷にも程がある。常に家から連絡が入るのがとにかく癪だった一騎は、高校を遠方にすることで合法的に家を出た。親戚の家に世話になりながら三年を過ごし、大学でさらに上京して、今がある。
何だかんだで家に帰っているらしい一海と違い、一騎は一切家と連絡を取っていない。

「そういや縁ターテイメントの話とかいる?こないだ帰った時に聞いたんだけど」
「面白かったらネタにするわ」
「いやあ、ほら。父ちゃんが消えて死んでる扱いになってるせいの財産分与の話を母がしだしててね」
「もういいわそれ。面白くねえわ」

一定の距離を保ったまま歩いている中で、会話と並行しながらもののやり取りが行われている。基本的に行動範囲が一致しない(同じ理系とはいえそういうことはままあるものだ)ため、呼び出されない限りは顔を見ることもない。

「でも絶対父ちゃんこういうめんどくさいの嫌いだったろうしな~っていうのと、ホラさ、離婚したじゃん」
「あっフフ」
「俺たちのときはちゃんと綺麗に半分にしとこうな~兄~」
「いやそもそも継ぐか分からんしな。借金とか継ぐ羽目になるんやで」
「知ってる知ってる。だから揃って放棄したら面白いよねって」
「それは面白いね」

ようやく足を止める。視線を落とした先の書類に、雑に判子を押した。土台に使え、と差し出されたプラスチック製のケースには、いつしたかわからない落書きが群れている。

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