Novelber2019 02:手紙

『やあ!今日のレポートいかがかな!怪異事例分析のなら私権限で締め切りをウワッするので今から芋を焼くので来い 大日向』

返事は当然イエスであった。

大日向深知。最強大天才の名を好きにし、名は体を表すと言わんばかりの圧倒的存在力で学内で圧を放つ、表向きは第二学群のポストドクターだ。専門は発生生物学――ということになっている。あくまで表向きは。
最強大天才の真の顔は、この紫筑でほとんど日の目を見ない『第四学群』所属の、名実ともに紫筑大学最強の能力者だ。学長の次の次の次くらいにえらいポジションだと言い張っていたが、面倒なのでそこまで確認を取ったことはない。確認を取らなくても、やってくる人間である程度の判別はつくからだ。何より判別をしなくても、西村たち“怪異対策群実務班”のリーダーである。要するに上司だ。
こいつから何か連絡があったとき、基本的に絶対に何かあったと思ったほうがいい。具体的に言うとマジで何かに巻き込まれかねないので果てしなく警戒している。今もだ。

「ちょろいなオマエ!そういうところだぞ、ボクがオマエのことチョロ村一騎って呼ぶの」
「常にチョロ村って呼びたい理由を探しているだけでは?」
「よく分かったな!」

枯れ葉に混じり、大量の書類が持ち込まれた一角で、同じチームに配属されている宮城野陽華が縮こまりながら芋をアルミホイルに包んでいた。
農学研究科の分け前をぶん取ってきたらしいそれを見ながら、呼ばれたからには手伝っておかないとと思い、彼女の隣に座る。夏場はすっかりへばっているが、今くらいの時期になると彼女の能力によってその背に備えられた黒い翼は、羨ましいものに見えた。

「……西村さん……」
「ウス。呼ばれた?」
「……せっかくなので……庶民の生活を味わってこいと母も言うので……」
「……庶民……庶民はスーパーで芋買うんじゃねえかな……」

クソみたいな手紙には全部火をつけてやれ~!!と喚く元気な声がする。元気で結構。最強大天才が静かになるときを知りたい。

「そうですか……」
「まあ俺も田舎じゃやったよ、焼き芋。書類とフィーバータイムは流石にしなかったが」
「紙を燃やすのは……いいんでしょうか……分からないです……」
「まあ何とかするっしょ」

学内で盛大に騒ぎ立てているものだから、わらわらと研究棟から教授や職員が湧いて出てくる。じゃあ俺も私も、と大量の紙類が持ち込まれて、あっという間に紙の山が倍近くに膨れ上がっていた。このデジタル世代に未だに紙を要求しやがって、と思うことも多々あれど、紙の方が確かに保存性に優れている。

「点火だ!今日も燃えていくぞ!」
「……も……?」
「芋、まだまだあるからな!しっかり食えよ宮城野!」

あっという間に何もないだけの空間がパーティー会場じみた騒がしさになる。枯れ葉や枝を適当に拾って集めながら、西村はパソコンを豪快にコーヒー店に忘れてきたことに気づいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?